2018/05/17
臨床仏教研究所公開研究会を開催いたしました。
◆仏教チャプレンによるいのちのケア
全青協・臨床仏教研究所では、5月17日に「現代アメリカ社会における仏教チャプレンの活動内容と課題」と題して公開研究会を開催しました。
今回は、元エンジニアでありながら50代で僧侶へと転身し、現役の「仏教チャプレン」としてアメリカのペンシルバニア大学病院で日々「いのちのケア」に携わっておられる古村栄伸さんを講師に迎え、仏教チャプレンの活動内容とその課題についてお話していただきました。
日本で広がりを見せる臨床仏教師による「いのちのケア」。アメリカでは「チャプレン」と呼ばれ、専門職の一つとして認識されています。医療機関以外にも学校、企業、軍隊、刑務所などで必要とされ、チャプレンのほとんどが宗教や宗派の違いを超えて、悩みや苦しみを抱えている人びとにケアを提供しているのだといいます。現在、職業チャプレン協会に所属しているチャプレンの数は約5000名。仏教徒の人口が少ないアメリカ社会の中で仏教チャプレンは少数派で、育成の組織化がされてから20年とまだまだ歴史も浅いのです。しかし、仏教を平和な宗教としてみている人も多く、その関心は高いといいます。
デンパーのナロパ(Naropa)大学の神学修士では認定資格を得るため、「道(法)」の成就に必要とされる「聞・思・修」を学び、そのほかにも仏教学や家系図調査(Genogram)、瞑想など仏教に関する教科が設けられており、こうした仏教徒指導員のもとで学ぶクリニカル・パストラル・エデュケーション
(CPE)プログラムは全米で数多く開設されているのだそうです。
◆菩薩道としてのケア
古村さんはチャプレンとして活動する中で、「仏教の教えが指針を与え、チャプレン行がまさに仏道修行なのです」と力強くお話されていました。チャプレンに求められる心・身の構え方は相手の抱えている問題の解決が目的ではなく、ただ心を開いて「ここにいる」と感じること・苦しんでいる相手の前に座って寄り添うこと・相手のことや自らの経験をそのままに受け入れることなのだといいます。そして、そうした中で自然と出てくる相手を支えたいという「慈悲の思い」こそが仏教における「菩提心」であり、指針となる仏教の教え、菩薩道なのだといいます。こうした仏教の教えが与える仏教チャプレンの強みとして自他の苦に接する力・平和をもたらす力・瞑想指導力・非仏教者への対応力を挙げておられました。
最後に今後の課題として、教育訓練機関の拡大・CPEへの仏教思想の導入などにより仏教チャプレン間だけでなく教育訓練機関との間でも連携を深め、理解や認識を共通したものにさせることが必要であると語っていました。
◆今後の課題
後半の指定討論では、日本の仏教チャプレン(臨床仏教師)の課題と今後について議論が交わされました。当会の神主幹は、アメリカに比べ日本で現在行われている臨床仏教師の育成カリキュラムの内容・時間を問題として挙げ、教育訓練システムの充実化が今後の課題であると訴えました。これに対し古村さんは、アメリカのCPEなどによって積み重ねられた知恵と日本の仏教思想や臨床の実績・傾聴技術を互いに共有していけたらより充実した訓練プログラムが構築されていくのではないかと述べました。
東京大学名誉教授・当研究所の大井玄アドバイザーは今回の公開研究会を通して、あるがままに相手を受け入れどのように寄り添いサポートしていけばよいかを考えることの重要性を強く感じたと語っていました。また、アメリカにおいて仏教チャプレンが行っている「傾聴」「祈り」は日本における「生活仏教」としての重要な役割であり、今後ますます取り入れられていくことを期待するとコメントされていました。