セルフヘルプ・グループ活動から学ぶこと
5月26日、今年度2回目の「生と死を見つめる集い」が開かれました。今回は大正大学名誉教授で全青協評議員の石川到覚先生をお招きし、「セルフヘルプ・グループ活動から学ぶこと」というテーマでご講演いただきました。
同じような困難を持つ者同士が集まり支え合う「セルフヘルプ・グループ活動」は、近年、心身の苦痛や孤独感に苛まれる日常から解き放たれる方策として注目されています。
石川先生は、はじめに、セルフヘルプ・グループの定義として以下の3つを挙げられました。
①グループ内に何らかの問題や課題を抱えた当事者(本人や家族)が含まれていること
②自分のことは自分でするという原則と同時に、相互に助け合うという、仲間同士が支え合うグループであること
③当事者と支援者、言い換えれば、当事者と当事者ではない人のグループであること
その後、セルフヘルプ・グループの活動の原則についても3つを挙げて説明してくださいました。
① ヘルパーセラピーの原則
これは、援助する人が最も援助を受けるということです。日常の一例に例えると、親が子どもを育てていくなかで、親自身も成長しているということがこの原則に当てはまります。
② コンシューマーの原則
当事者が支援者にもなるということです。これは、当事者こそがどのような支援をして欲しいのかを一番わかっているという発想に基づいています。当事者こそが他の当事者に最も寄り添うことができるのであり、お互いに支え合う関係ができあがります。先生は、当事者が専門家に大きな気づきを与えることもあるとおっしゃっていました。
③ 専門的援助にはない体験的知識
先生はこの知識を「心身の体験を生き抜く知識」とも言い換えており、教科書的な知識ではなく、活かせる知識に基づいた非専門的な支援こそが重要であるそうです。専門家は目の前の問題を解決することに全力を注ぎます。しかし、それは、言い換えれば、支援の"終わり"を意識していることでもあります。セルフヘルプ・グループ活動は、問題の解決ばかりに目を向けるのではなく、その人が必要としているうちは、ずっと寄り添い、支援の"終わり"を意識することはありません。
また、セルフヘルプ・グループは「社会(対外)志向」「内部(対内)志向」「自己実現」「他者共有」など、グループの仲間がどのような思いで参加しているかによって、目指すところも変わってくるそうです。精神的に病を抱える方、アルコール依存症、エイズ患者など、具体例をあげながら、実際にどのようなセルフヘルプ・グループがあるのかもお話くださいました。
講演を通して、石川先生は、「当事者」「素人(ボランティア)」「専門家」がグループとなって協働すること、すなわち、違う性格の人が集まって協働することの重要性を強調されました。当事者性を持つ人、素人性を持つ人、専門性を持つ人は、それぞれが固有の性格を持っています。閉鎖的空間に閉じこもるのではなく、開放的なグループの中で、それぞれが固有の特性を発揮することによって、新しい大きな波が生じるといいます。「支援する側」「支援される側」という関係ではなく、お互いが自らのもつ特性を存分に活かすことで、その力は二倍にも三倍にもなると、先生はおっしゃいました。
石川先生は浄土宗に属されておりますが、これらの考え方の根底には浄土宗で大切にする「共生」の理念があるそうです。先生のお話は、私たちが日常の生活においても大いに役立つものであると思いました。日々一生懸命生きていくなかで、何かにつまづいたとき、困難に見舞われたとき、自分ひとりで解決しようとするのではなく、家族や友人、あるいは全く違う考え方をもつ誰かと共有することで、新たな一歩を踏み出せるのかもしれません。この「生と死を見つめる集い」でも、参加者の皆さまと一緒に「生と死」に向き合い、多くの方々の死生観に触れることで、自らの核となる死生観を見つけ、一日一日を輝いて生きていきたいと思います。