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対人関係・コミュニケーション
「赤い糸」のゆくえは......?―若者のデリケートな結婚事情―
ぴっぱら2010年1-2月号掲載
「いい人がいないのよね〜」「すぐにでも結婚したいんだけど......」こんなつぶやきが、周囲のそこかしこで聞こえてきます。まじめに仕事をし、友人も多い、「あの人ならすぐにでも結婚できそうなのに」という若い人たちが、なぜかなかなか結婚にたどり着かないのです。
いまや20代後半の未婚率は、男性71・4%・女性59・0%、30代前半では男性47・1%・女性32・0%という高い数字です(2005年『国勢調査』総務省)。つまり、30代前半でも男性は2人に1人、女性も3人に1人が独身なのです。ちなみに、20年前の調査では30代前半の未婚率は男性28・1%、女性10・4%ですから、独身者の割合はかつてに比べそれぞれ2倍、3倍近く増えています。
しかし、若い人が結婚したがらなくなったのかというと、決してそうではないようです。国立社会保障・人口問題研究所の調査によると、「いずれは結婚するつもり」という未婚男女は、20年前も現在も90%を占めています(2005年『第13回出生動向基本調査』)。また、25〜34歳の「独身にとどまっている理由」の第一位は、男女ともに「適当な相手にめぐりあわない」というものです。結婚はしたい、でも適当な相手がいない......そこには、どのような理由が隠れているのでしょうか。
◆求む!「ほどほど」の人
結婚相手はどんな人がいい?と、20代後半の独身女性たちに聞いてみました。
「やさしくて自分をよく理解してくれる人」「あんまりお金がないのも子どもがかわいそうなので、ほどほどの収入の人」「自分が大切にしている趣味を続けさせてくれる人」という答えがすぐに挙がります。同じように30代の男性に聞いてみると、「精神的に支えてくれる人が嬉しい」との声が。男女どちらも、「大金持ちがいい」とか「女優のような美人でなくては」などと夢のようなことを考えているわけではなさそうです。
しかし、総じて女性の希望の方が具体的だという印象です。女性の声を整理すると、ほどほどの収入があって、ほどほどに家事育児も手伝ってくれて、やさしく理解がある人、ということになるでしょうか。それにしても、一体どこまでが「ほどほど」なのか、気になるところではあります。
2005年「若者就業支援の現状と課題」(政策研究・研修機構)によると、年収別の結婚している人の割合が明らかにされています。たとえば、30代前半の男性では、年収が250〜299万円の有配偶率は42・3%。これに対して、600〜699万円では78・9%と、大きな差があることがわかります(グラフ参照/次ページ)。この差は、各年齢分布で同じように見られました。つまり、男性は「収入が多くなるにつれ結婚しやすくなる」という、あたり前といえばあたり前のような、しかし極めてシビアな結果が出ています。
また、年収の分布を20年前と比較してみると、結婚適齢期の男性の平均的年収の層は20年前に比べ減少し、代わりに年収の低い層が増加しています(『就業構造基本調査』総務省)。これでは、もし女性が結婚相手を平均的所得以上の人の中で求めるとすれば、対象が減っているということになります。
◆大人と子どものいいとこどり
中央大学教授の山田昌弘氏は、10年ほど前、学校卒業後なお親と同居し、基礎的生活条件を親に依存している未婚者を「パラサイト・シングル」と命名、反響を呼びました。若者の結婚動向を論じるにあたり、家族との関係を知ることは重要な手がかりとなります。
山田氏によると、いわゆる団塊前後の世代は、右肩上がりの経済成長の中、学校を出て就職をすれば順調に収入を伸ばすことができました。ほとんどの人は働きさえすれば中流の生活を営むことができ、勤め人は結婚して専業主婦の妻と子どもを養うことが一般的だったのです。
彼らの子ども世代、つまりいま適齢期の若者は、生まれたときから比較的豊かな環境で育ちました。兄弟の数も少なく、中流の家庭であれば親も子どもの教育に熱心です。習い事や塾にも通い、十分な学費をかけてもらうことができました。豊かな親と仲良く暮らしている彼らは、大人になっても生活費を気にせず、自分の収入は趣味やレジャーに自由に使うことができます。家事は母親が担当し、不自由はありません。
その上、かつてはなにかと制限を受けることの多かった恋愛も、理解ある親の元、存分に楽しむことができるのです。パラサイト・シングルは、いわば「大人と子どものいいとこどりができる立場」と山田氏は言います。
◆豊かな「パラサイト」ばかりではない
現在、親と同居をしている全国の未婚者は、30代前半の男性で69・9%、女性は79・3%と非常に高い割合です(2005年『第13回出生動向基本調査』国立社会保障・人口問題研究所)。
しかし優雅なパラサイト・シングルたちも、若いうちはいいものの、親が一生面倒を見てくれるわけはなく、だんだんと自立を迫られることになります。また、介護の問題も身近になります。そして女性は、出産の年齢制限があるため、30歳前後になると一様に結婚をあせり始めるのです。
ところが、前述のように若い男性の平均所得は減少しています。働く女性も多いのだから自立を目指すべきだと言われそうですが、女性の雇用は一般的に男性に比べ、あまり良い条件ではありません。男性は所得が伸び悩む中、一家を支えることに不安を覚え、女性は「親代わり」となる依存先を探しますが、自分の条件を満たす男性はなかなか現れません。
現在親元で不自由なく暮らしている人ほど、相手がなかなか見つからず、結婚を先延ばしにするのではないでしょうか。「豊かな親の元に育った若者にとって、結婚はもう、生活水準を下げるイベントになってしまった」と山田氏は著書『パラサイト・シングルの時代』で語っています。
一方、同じように親と同居をしていても、まったく事情の異なる人たちもいます。15〜34歳の男性でいわゆるニートやフリーターをしている若者も、やはり70%以上が親と同居していますが、こうした若者の学歴は中卒や高卒の割合がとても多いのです。そして世帯全体の収入を調べると、子どもがニートやフリーターの家庭は、低所得層に多く分布することがわかります(2005年『若者就業支援の現状と課題』労働政策研究・研修機構)。
つまり、低所得な家庭ほど子どもがニートや不安定な職に就きやすく、親と同居せざるを得ないという構図も浮かんできます。正規雇用でなければ収入は不安定で、「ほどほど」を探す女性たちにも選ばれにくいのです。今や、非正規雇用者は35歳未満の男性の23・1%と、若い男性の5人に1人の割合です。こうした若者の増加も晩婚化・非婚化に拍車をかけています。
◆新種の男子も急増中
さらに、内面的変化も見逃せません。数年前から、巷では「草食系男子」という言葉が聞かれるようになりました。これは、肉食動物のように対象(異性)を見れば追いかけるというようなことをしない、おとなしく、優しく、マイペースな男性のことを指すようです。そんな男性が、現在若い世代を中心に急増中だそうです。
彼らの特徴は、女性にも仕事にもガツガツしないことだと言われています。そして家族や友人、自分の趣味など、身近な世界をことの外大切にする人たちでもあります。
昨今は、携帯やパソコンなど情報ツールの発達により、欲しい情報をいつでも好きなだけ手に入れることができるようになりました。また、そうしたツールを介して人とコミュニケーションを持つこともできるので、女性と恋愛すること自体が面倒くさくなった、という声も聞かれるのです。
かつては、誰もが1度は結婚できた時代でした。内閣府の「平成21年度版少子化社会白書」によると、1975年の男性の生涯未婚率はわずか2・12%(グラフ参照/左)。ギャンブル好きや暴力的な人まで、どう考えても結婚には向かないような人など、わずかな人を除いてほとんどが結婚できていたということに驚かされます。
実は'60年代末を境に、それまで主流だったお見合い結婚は、数の上で恋愛結婚と逆転し、現在では90%近くが恋愛結婚なのです。しかし、もともとコミュニケーションが得意ではない若者にとって、これはかなり不利なことと言えるのではないでしょうか。しかも恋愛のゲームやアニメキャラクターなど、恋愛の代替となるヴァーチャルな素材も花盛りです。こうして、最初から結婚や恋愛をあきらめたり、興味を失ったりしている若者も多いのです。
'80年代前後からは男性の生涯未婚率は急カーブを描き、2005年は15・4%と、今や2割に迫る勢いです。この数字は、今後もさらに増え続けると考えられています。
◆幸せな家族が増えるために
未婚者が増える社会というのは、いかがなものでしょうか。もちろん、籍を入れなくても幸せに暮らしているカップルはたくさんいます。しかし、子どもは婚姻関係の中で生まれるべきという規範の強い日本では、外国のように婚外子が生まれる割合はとても低く、結婚しない人が多いということは、結果として少子化も進むことになります。また、家族を持たないということは、その人たちが晩年、どのようなコミュニティで過ごすのか予測がつきません。社交的な人は別としても、人付き合いの苦手な人ほど孤独感を募らせ孤立していくかもしれません。そうした人が今後ますます増えるのです。
適齢期の若者たちは、決して結婚したくないわけではありません。女性は、現在の自分の生活水準を保証してくれる男性を探しています。しかし、その条件を満たしてくれる男性はほんの一握り、現実には見つけるのが難しい状況にあります。
男性は、自分のこだわりに理解を示し、自分の収入にも納得してくれる女性を探しますが、そういう人はなかなか見つけられません。お互い、いない相手を必死に探しているのが現状です。若者たちは自分たちの置かれている状況を理解し、歩み寄ることが大切なのではないでしょうか。
また、社会構造はやはりこの問題の大きな要因であると言わざるを得ません。経済が低成長期に入るにつれ、格差社会のしわ寄せが相対的に若年者に向かっています。そして、子どもを持ちたいと思っても、将来の教育費負担を考えると前向きに考えられない人も多いでしょう。高等教育の学費無料化など、教育費に関しても包括的な支援が求められます。
経済的な安心感と同時に、もう一つ大切なことがあります。「ご縁」という言葉があるように、出会いとは自ら選び取るものである以上に、お導きのお陰によるものでもあります。
ご縁はいただくもの、お金では計れないものという価値観を、大人たちは若者にいまこそ伝えていくべきではないでしょうか。明るい未来を実現するため、若者の意識改革と経済格差の解消、その両方がいま求められています。(吉)