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家庭・暮らし
安心できる子育て環境を―「ベビーシッター事件」を受けてー
ぴっぱら2014年5-6月号掲載
急募!22歳、シングルマザー。下の子がまだ保育園に入れてないので手当てのお金で生活しています。だんだん厳しくなりバイトを始めました。
時間...18時〜朝方。※迎えに行く手段がないのでお泊まり保育できる方。場所...家には父親がいるので(体調不良)、当方さまのご家庭でお願いできる方...。
埼玉県のマンションで3月、2歳の男の子が遺体となって発見され、8カ月の弟が低体温症で保護される事件が起こりました。神奈川県横浜市内に住む母親は事件の数カ月前から、インターネットのベビーシッター紹介サイトにこのような書き込みをして子どもの預け先を探していました。
犯人は26歳の男性。インターネットの仲介サイトを使い、個人でベビーシッターとして活動していた人物でした。
事件を受けて、「見ず知らずの人に大事な子どもを預けるなんて理解できない」「母親として非常識」といった母親を批判する意見がたくさん出されました。しかし、この書き込みが真実だとすれば、2人の子どもを抱えたシングルマザーであったこと、夜間の仕事のために子どもの預け先が必要だったこと、体調不良の家族がいて頼れない状態だったことがうかがえます。
働きながら幼い子どもを育てている人や、育てた経験のある人からは、とても他人事とは思えないという声も上がっています。今回の事件からは、インターネットの仲介サイトに頼らざるを得なかった、子育て家庭の切実な状況が浮かび上がってきます。現在の子育て家庭を取り巻く環境を知り、その課題について考えてみたいと思います。
◆「私も利用していたかも」
東京都内で小学生の子どもを育てるYさん(38歳・女性)は、子どもを保育園に預けながらフルタイムで勤務してきました。夫は激務で帰宅時間が遅く、子育てに関してはほぼ「戦力外」。夫婦ともに頼れる親族は近くにいません。Yさんは子どもの急な発熱のたびに保育園から呼び出され、職場で肩身の狭い思いをしてきたといいます。
子どもの体調不良が続いたときには大手のベビーシッター会社に依頼したこともありましたが、一日で数万円にもなってしまうシッター利用料は重い負担でした。
「風邪が流行る時期には、今日も保育園から呼び出されませんように......と毎日ドキドキしながら仕事をしていました」とYさん。その頃、インターネットの仲介サイトがあることは知らなかったそうですが、「切羽詰っていたら私も利用していたかも。どこに預けるとしても不安がまったくないとはいえませんが、どうしても、というときは絶対にあります。困っているご家庭は多いでしょうね」と、働く母の苦しい胸のうちを語りました。
◆さまざまな公的サービス
そうした需要に応えるサービスは、企業だけではなく都市部の自治体でも行われています。中でも、近年利用者を増やしているのが「ファミリー・サポート・センター」と呼ばれるものです。
ファミリー・サポート・センター(通称ファミサポ)は、地域において育児の援助を「受けたい人」と「行いたい人」双方を募って登録してもらい、仲介を行うものです。子どもの一時預かりや保育園の送迎などが可能で、条件や利用料は自治体によって異なりますが、1時間700〜900円程度と、企業のベビーシッターを利用するより割安です。
現在、全国でおおよそ700の市区町村で実施され、その数は年々増えています。センターが仲介してくれる上に援助を行う人には講習が課せられていたり、事前の顔合わせがあったりすることなどから、一定の安心感があります。
また、ファミサポのほかにも、保護者の帰りが遅くなるときなど、子どもを母子生活支援施設や児童養護施設などに一時的に預かってもらうトワイライトステイ(夜間一時保育)や、保護者が出張や出産などのときに子どもを宿泊させてもらうショートステイ(宿泊型一時保育)というサービスを行っている自治体もあります。
利用料は自治体によって異なりますが、子どもひとりにつき、トワイライトステイは1回1000〜2000円程度、ショートステイは1泊5000〜7000円程度です(住民税非課税家庭は半額、生活保護家庭は免除など減免措置あり)。
公的サービスは利用料が安く、安心感もありますが、数日前からの予約が必要なこと、また援助の担い手が不足しているため必要なときに利用できなかったり、定員が少なく利用できなかったりと、利用者からは「使いづらい」という声も上がっています。
さらに実施している施設が少ないため、近所でなければ利用が難しいことも課題となっています。先の事件の被害者が住む横浜市では、夜間、休日を含め24時間
365日対応してもらえると紹介される施設は2園のみ。こうした時間帯に預けないことが望ましいですが、人口370万人を擁する市としては少ないようにも思えます。
しかしもっとも大きな問題は、こうしたサービスがあまり認知されていないということです。厚生労働省の調査によると、ショートステイのサービスを知っているひとり親家庭の保護者は2人にひとり以下、利用したことがあるひとり親家庭の割合はさらに低く、わずか1%程度だったそうです。せっかくの制度も、利用者に認知されていないのであれば「絵に描いた餅」となってしまいます。
2010年に大阪で起きた、2児が母親に放置されて死亡した事件の際にも、何とか子どもたちを救う手だてはなかったのかと、行政の責任を問う声が上がりました。ひとり親家庭に限らず、時間や金銭に余裕のない人ほど、リスクの高いサービスを利用してしまう傾向があります。こうした保護者に、必要な情報が確実に届くようにしていかなければなりません。
◆ベビーシッター等を利用する際の注意点
近年では共働きやひとり親家庭の増加、核家族化といった家族形態の変化に加え、夜間や休日に勤務するようなサービス業就労者の増加など、産業構造の変化によるライフスタイルの多様化が進んでいます。公的な保育の受け皿が不足する中、子育ての安心を補完する存在として、ベビーシッターの需要は今後ますます増えることでしょう。
参考までに、ベビーシッターなどを利用する場合の留意点を挙げておきます。
①まずは情報収集を(保育料の安さや手軽さばかりではなく、信頼できるかという視点でベビーシッター事業者の情報を収集しましょう)
②事前に面接を(信頼に足る人物かどうかを必ず確認しましょう)
③事業社名、氏名、住所、連絡先の確認を(身分証明書のコピーももらうようにしましょう)
④保育の場所の確認を(子どもの自宅以外の場合には、適切な場所であるか確認しましょう)
⑤登録証の確認を(保育士や認定ベビーシッターの資格を持っている場合には提示を求めて確認しましょう)
⑥保険の確認を(万が一の事故に備えて、保険に加入しているか確認しましょう)
⑦預けている間にもチェックを(電話やメールで確認しましょう)
⑧緊急時における対応を(子どもの体調の急変など緊急事態が生じた際に、すぐに連絡を受けることができるよう体制を整えましょう)
⑨子どもの様子の確認を(子どもの引渡しを受ける際、保育の内容や子どもの様子について報告を受けましょう)
⑩不満や疑問は率直に(不満や疑問が生じた際には、派遣した事業者等にすぐ相談しましょう)
緊急時に頼る存在だからこそ、保護者は余裕を持って情報を集め、自らの目で安全を見極めたいものです。そして、二度と子どもが犠牲になることのないよう、子ども主体の子育てを、社会全体で見直していく必要があるのではないでしょうか。
参考:厚生労働省
「ベビーシッターなどを利用するときの留意点」