不登校・ひきこもりについて考える

ひきこもりについて考えるー社会参加に向けたアプローチー

ぴっぱら2001年8月号掲載

去る6月9日・10日の2日間にわたり、大阪・天王寺の應典院で、「ひきこもりから脱却するためのセミナー」が開かれた。主催は関西子ども文化協会(NPO法人)で、連続三回講座の一回目。当日は150人の参加者が会場を埋め、この問題の深刻さをうかがわせていた。

初日は精神科医の斎藤環氏が、年々社会問題化しているひきこもりについて、具体的な臨床事例をまじえながら2時間の講義を行った。
まず、ひきこもりの定義として「20代後半までに発症し、6カ月以上自宅にひきこもって社会参加をしない状態が続いていて、精神障害がその第一の原因とは考えにくいもの」と説明した。ひきこもりは、些細なことがきっかけになっていることが多く、具体的な原因がわかりづらいのが特徴だという。
この問題は、近年いくつかの重大な事件と絡めてマスコミで報道され、社会的な問題の一つに数えられるようになった。そのため、あたかも「ひきこもり」イコール「犯罪」といったイメージができあがってしまった感がある。
斎藤氏はこのことに関して、「ひきこもりの人が犯罪を犯す確率は、通常の犯罪率に比較してはるかに少ない」と、きっぱり否定した。ひきこもりは反社会的な行動にはほとんど結びつかず、むしろ日本の若年層の犯罪率を引き下げているという。
ひきこもりは不登校と同じで、誰もがなりうる可能性があり、決して特殊なことではない。その治療も決して難しくないと斎藤氏は言う。もともとひきこもる人は、他の人とのコミュニケーションをとても欲している。しかし、理想化した人間関係をイメージし過ぎるため、それが原因となって関わりを恐れる傾向があるそうだ。
それを打開するためには、まず引きこもり当事者の仲間を作ること、自助グループに参加することなどが重要になるという。親は子どもにきちんと挨拶を心がけ、自分自身が毎日を楽しく過ごすよう努力しなければならない。進路や将来のことなど、子どもにとって深刻な話題は避けるようにし、不快にならないような範囲で言葉をかけ続けることが求められる。

二日目には斎藤氏を囲んで親の会が開かれ、50人ほどの父母が、それぞれの悩みを疑問としてぶつけていた。
20代後半の青年を持つ母親は、子どもから「こうなったのはお前のせいだから責任を取れ」と言われているという。これに対して斎藤氏は、「責任を取れとうったえてくるのは自分が変わりたいからです。旅行など外の世界と接点を持つ機会を設けたらよいでしょう」とアドバイスした。
また、10代後半の少女の母親は「食事を一緒にしたりお手伝いをしてくれるのですが、外に出たいが出られないといって泣きます。どうしたらいいでしょう」と質問した。これに対しては「泣くことによって親に弱みを見せるというのは、信頼関係が成り立っているからです。多少抵抗されるかもしれませんが、専門医に相談に行こうと言ってみて下さい。こういう子は適切な対応をすればすぐに良くなるでしょう」と答えた。

全国に50万から100万人いるといわれるひきこもりの若者たち。今回のセミナーのように、親や本人の悩みに応える場はまだまだ少ない。一つでも多くの場作りが、今後ますます求められていくだろう。(神)