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地球の「いのち」を守れるか? -進行する地球温暖化の現在-
このほど、今年のノーベル賞受賞者が発表され、物理学賞に日本出身の科学者、真鍋淑郎さんが受賞しました。真鍋さんは、アメリカの気象局などにて研究を行い、さまざまな要素が複雑に絡み合う気候の変化をコンピューター上でシミュレーションする「大気海洋結合モデル」を、1960年代、世界で初めて発表しました。
そして、二酸化炭素の濃度が上がると地上の平均気温が上昇することを初めて明らかにし、地球温暖化予測の先駆的な研究を行いました。
「研究を始めた1960年代には、気候変動がこれほどの大問題になるとは想像していなかった」と、真鍋さんは受賞決定後の会見で語っています。
近年、干ばつや洪水などの異常気象が増えていることに関しては、1980年代に真鍋さんたち研究者が行った計算モデルが現実のものとなってきていることに言及し、「当時はモデルの結果について、疑問に思っている人もいた。今はそれが疑いのないことだと分かるようになった」とも語っています(朝日新聞デジタル・10月5日)。
◆今年も相次いだ異常気象
その言葉を裏付けるかのように、今夏も世界中で異常気象が猛威を振るいました。
今年6月末、カナダ西海岸のブリティッシュ・コロンビア州では、カナダ国内の観測史上最高の49・5℃を記録しました。3日間連続で観測されたという異例の高温に、州内では、暑さが原因とみられる高齢者の突然死が相次ぎました。
同州、バンクーバーの海岸では、高い海水温と強烈な日差しによって、沿岸のムール貝やフジツボなどの生物が、半ば加熱調理されたような形で大量死してしまったと、ニューズウィーク日本版は報じています。
また、イタリア南部のシチリア島でも8月上旬、48・8℃を観測し、世界気象機関の検証で記録が確定すれば、ヨーロッパでの観測史上最高気温になるとされています。
一方で、ドイツやベルギーでは、7月に豪雨による洪水が発生し、200人以上が犠牲となったことも日本で連日、大きく報じられました。
地球温暖化をこのまま放置して良いはずがないと思いながら、地球規模の出来事の前には、自分ができることはあまりにも小さく感じられます。しかし、これほどまでに尋常ではない気象が繰り返される今、何か行動を起こさなければ、取り返しのつかない事態になるのは必至です。
◆気候変動に関する最新報告書
ノーベル賞が発表される2か月ほど前、あまり大きく取り上げられてはいませんが、気候変動に関する重要なニュースがありました。
世界各国、数千人以上の研究者・専門家が参加して気候変動を科学的に分析する政府間組織、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)による最新の報告書、第6次評価報告書が、8年ぶりに公表されたのです。
今回の報告書で特筆すべきことは、現在起こっている地球温暖化は、人間の活動によるものであると「断定」されたことです。
これまでに出された報告書では、人間の活動による「可能性が極めて高い」という、あくまでも可能性の表現に留まってきましたが、今回は、人間の活動によって引き起こされたことに「疑う余地がない」と、従来よりも踏み込んだ表現で示されています。
また、「気候システム全般にわたる最近の変化の規模と、気候システムの側面の現在の状態は、何世紀も何千年もの間、前例がなかったものである」と強い調子で危機的状況を示し、地球環境が待ったなしの状態であることを私たちに伝えているのです。
◆温室効果ガス削減へのあゆみ
IPCCの報告書を受けて、各国のリーダーらも相次いで声明を発表しました。イギリスのジョンソン首相は、「この先の10年が地球の未来を守るうえで極めて重要なのは明らかだ」と述べました。
また、アメリカのブリンケン国務長官は、「気候変動対策をこれ以上遅らせることはできない。各国のリーダーや民間企業、それに個々人がともに行動し、私たちの地球と将来を守るために、できることをすべて行わなければならない」と述べています。(NHKニュースウェブ・8月10日)
これらの声明のように、気候変動への対策を行う、つまり、温室効果ガスを地球全体で削減するべきだということには、各国とも異論の余地はありません。
しかし、既に十分な発展を遂げてきた先進国と、これから経済成長を遂げようとする発展途上国、そして地球温暖化の被害をいち早く受ける国や後発途上国との間では、自国の利益をかけて激しい交渉が行われてきたのです。
1980年代頃から、研究者のあいだで認識が高まってきた地球温暖化と気候変動の問題は、各国の政府関係者にも広く共有され、1990年代以降、COP(温室効果ガス削減のための国際会議)が開催されるようになりました。
1997年に日本の京都で開催されたCOP3での「京都議定書」では、一部の先進国のみが削減義務を負う枠組みが採択されたことによって、ブッシュ大統領就任時のアメリカが離脱するなどの出来事もありました。新興国ではあったものの、温室効果ガス排出量の多い中国などが除外されていたこの条約は、見直しを迫られるものでした。
そうした紆余曲折を経て、「すべての国が参加する、温室効果ガス削減への枠組みづくり」として無事、採択されたのが、2015年に行われたCOP21パリ会議での、いわゆる「パリ協定」です。
地球温暖化の指標となる産業革命前と比べて世界の平均気温の上昇を2℃未満、できれば1.5℃未満に抑えようという目標に向けて、国別の目標を設定、報告、更新していくしくみが作られました。また、途上国が求める目標達成のための資金援助を先進国が行うことも盛り込まれています。
温暖化対策に関して、世界は足並みをそろえたかに見えましたが、2017年、自国第一主義を掲げるアメリカのトランプ大統領が突如、アメリカの離脱を表明し、各国関係者には戸惑いが広がりました。しかし今年、現バイデン大統領によって、アメリカはパリ協定への復帰を果たしています。
◆気温上昇「5つのシナリオ」
温暖化対策の歴史的第一歩とも言われる「パリ協定」。ここで掲げられた、「2℃未満に、できれば1.5℃未満に」という目標は、現在、日本でも環境保全を目指す企業等のスローガンとして、さまざまな場面で用いられています。
しかし、国連によると、これまで各国が提出した排出削減目標を積み重ねてみても、1.5℃目標はおろか、2℃目標を実現するための削減量にも遙か遠く及ばないということで、さらなる削減目標の強化が求められています。
最新のIPCC報告書では、今後のCO₂排出量に応じた世界平均気温の上昇予測が、5つのシナリオとして示されました(図表参照)。
報告書によると、いずれのシナリオでも、残念ながら気温は2040年までに1.5℃上昇してしまうという予測となっています。
気温が1.5℃上昇すると、一体どのようなことが起こるのでしょうか。報告書によれば、これまで0年に一度発生していたようなレベルの極端な熱波が、8.6倍の頻度になるといいます。
また、10年に一度というような大雨は1.5倍の頻度に、10年に一度というような極端な干ばつの発生も2倍になると予測されています。
真鍋博士は、北半球では緯度が高くなるほど温暖化が大きくなることを研究で明らかにしましたが、それを裏付けるかのように、北極海の海氷面積は現在、最小規模に達してしまっていると報告書は記しています。CO²排出量が現在と同じ水準だった場合、2050年頃にはほとんど氷がない状態になってしまうというのですから衝撃的です。
すでに、絶滅危惧種に指定されているホッキョクグマは、そう遠くない未来、写真の中でしか見ることができなくなるでしょう。このまま温暖化と気候変動が続けば、私たち人間もそうならないとは言えないのです。
◆私たちがするべきこととは
菅元首相は、日本の温室効果ガスの削減目標として、2030年までに、2013年度の水準に比べて46%削減することを目指すと表明しました。また、2050年までに、温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすると宣言しています。
日本の温室効果ガスの排出量は、現在、世界第5位です。近年は減少傾向にあるものの、未だ電力の多くをCO₂排出量の多い化石燃料を使った火力発電でまかなっています。そのため、ヨーロッパで盛んに行われてきている「エネルギーシフト」、つまり化石燃料を減らし、原発を撤廃し、太陽光、風力、地熱発電などの再生可能エネルギーを主力電力化することが求められています。
また、電力以外にも、温室効果ガスの多くは、工場などの産業部門、自動車などの運輸部門から排出されています。脱炭素化を目指すには、そのための技術革新やインフラの整備等が不可欠であり、それをどのように推し進めるかが今後の課題です。
では、このような国や企業が主導する対策のほかに、個人や家庭でもできる取り組みとは何なのでしょうか。
その一つは、消費されずに廃棄される食品を減らすことです。これが生産や流通にまつわる無駄をなくし、結果として温室効果ガスを削減していくことになります。口にする多くのいのちをいただいている私たちであれば、特に大切にしたい取り組みです。
もう一つは、製品や食品を手に入れるまでに温室効果ガス排出量の少ないものを選んで購入することです。最近では、その品物が生産、流通、廃棄にいたるまでの工程で、どれほどの温室効果ガスを排出しているかという量を換算して数字で示した「カーボンフットプリント」という指標が注目されています。数は少ないですが、食品パッケージに表示されている例もあります。
こうした値が高い品物の購入回数を減らしたり、カーボンフットプリントをより抑える努力をしている企業の製品を選ぶことも、個人や家庭でできる大切な取り組みです。
あらゆることがインターネットで手軽に調べられるようになった現在、私たちは毎日の暮らしが環境そのものに直結していることを自覚しています。しかし、これまで多くの人が、環境のためにより良い選択肢を探り、行動することを諦めてきたように思います。
今こそ、私たちのいのちがこの世のすべての存在との関わり合いの中で育まれ、存在しているという真理を直視し、すべての動植物のいのちを護り、共に生きゆくために、世界の人と手を携え合い、環境のための良い種を撒き続けなければならないのです。