仏教者の活動紹介

仏さまのご縁日に結ばれる「縁」―五大院縁日―

(ぴっぱら2015年1-2月号掲載)

かつて賑わいを見せていた街の中心街。アーケードをのぞけはシャッターを下ろしたままの店が増え、歩いている人影はまばら――。こんな情景は昨今、各地で珍しいものではなくなった。

過疎化と少子高齢化は、個人や地域単位の努力では解決しきれない難しい問題だ。しかし、地域のコミュニティをまずは顔の見える関係に育てて、いざというときに助け合える状況をつくっておくことは、すぐにでも取り組みたい大切なことだ。

福島市飯野町。人口6000人ほどのこの町は、福島市の中心街から約20㎞のところにある。絹製品やりんごなどの特産品のほか、飯野町の北部にそびえる山「()()()」で発光物体などの目撃談が絶えないことから、全国でも珍しい「UFOの里」として内外にPRされている。

そんな飯野町の中心に、飯野町商店街がある。ここでは近年、商店街にあるお寺「五大院」にて、毎月一回、不動明王様の縁日が盛大に行われ、地域の人たちが集う場となっているという。

修験のお寺であるため檀家は持たず、数十年間無住だった五大院に転機が訪れたのは、今から13年ほど前のことだ。

◆はじまりは「ほら吹き大会」から

かつては養蚕の町として栄え、近年では福島市内に通勤、通学する人のベッドタウンとなっていた飯野町。しかし、東京方面の交通の便がよくなったことで、県内から若い人が流出してしまうようになった。この地域にも少子高齢化の波は押し寄せ、街にはお年寄りの姿が目立っている。

そこで、地元の商工会が中心となり、町おこしのさまざまなアイディアが出されるようになった。新年の初笑いイベント「UFOの里ほら吹き大会」も、その一つである。これは、「でっかい話だけど、正月の初夢話だと思って、勘弁してくなんしょ!」と、出場した人がほらを吹く(=夢を語る)、何ともほほえましい催しである。

「この大会で、『五大院にぽっくり地蔵をたてて、大勢の人が集う飯野版の〝おばあちゃんの原宿〞を作りたい!』と言った人がいたんです。これなら実現できるんじゃない?と、早速、お寺さんに相談に行きました」

そう語るのは、「五大院縁日を開く会」の丹治敬子さん。五大院は開山1300年という、この地方随一の歴史をもつ古刹である。五大院の兼務住職で天台宗観音寺住職の鈴木行賢さんは、「不動明王様が本尊なので、縁日として28日に行ったらどうですか」と提案しながらも、この相談を一も二もなく快諾した。

商店街の中心部にある五大院。しかし、これまでは時折、住職や信者さんが訪れるのみだった。「お寺をただのイベント会場にはしたくない」と考えた丹治さんら役員は、まずは一緒に五大院と、この地域について勉強することにした。お寺で催すにはどんな内容がふさわしいのか――。縁起や歴史を一緒に学ぶことで、それぞれの意識も高まってきて、五大院縁日を開く会は発足した。

こうして、記念すべき第一回目の縁日が、平成13年11月に開催された。10時、12時、14時と一日3回のご祈祷が行われ、合間には根菜がたっぷり入った、精進のだんご汁とお抹茶などがふるまわれた。月に一度、せっかく始めるからには長く続けたいという願いの通り、以来、東日本大震災の起こった月を除いて欠かさず行なわれている。

催しの一番の泣き所はお天気だが、「ここのお不動さんは晴れ男なの」と丹治さんが教えてくれるように、これまで大雨に遭うこともなく、平成26年6月でめでたく150回を迎えている。

◆記念すべき一日

150回目のこの日は、丹治さんの言葉通り、梅雨空ながら晴れ間がのぞく絶妙なお天気となった。おそろいの黄色いポロシャツを身に着け、きびきびと境内を動き回る役員の皆さん。80代の丹治さんをはじめ、役員の多くは中高年の方々だ。

テントの下では、近所のおばあちゃんたちが朝採れたばかりの野菜を並べ始めた。慣れた手つきで焼きそばを作っているのは、商店街で中華料理店を営む方だという。庫裏()の方からは、だんご汁のいい香りがただよう。そして時間になれば、三度のご祈祷が始まる。お香の香りとおいしい香りの、不思議なコラボレーションとなった。

150回を記念して宇都宮から駆けつけた「TRINISTA」によるスティールパン(ドラム缶から作られた打楽器)の演奏が始まると、音楽を聞きつけて親子連れが集まりはじめた。バルーンの着ぐるみをまとった子どもたちは、早速、音楽に合わせて身体を揺らす。そのかわいらしい様子を、目を細めて見守るお年寄りたち。境内のあちらこちらで挨拶の輪が広がっていく。

◆主役は町の人たち!

縁日では音楽以外にも、写真展、陶芸展、()野草()展、民話の会など、毎回テーマが決められ、目玉となるさまざまな企画が行なわれている。毎月8日に役員が五大院に集まり、催事を検討する。講師や出展者はたいてい、町内の人である。

「そういえば、あの人写真が趣味だったね!なんて言いながら、企画にさせてもらうの。『いや、私なんか......』と言っていた人も、みんなに見てもらって、すごいねー、うまいねーと言われれば張り合いがあるでしょ!?」と丹治さん。

縁日の企画から始まった、手作りのつるし雛の展示は、その後、街中の店頭につるし雛を飾る「飯野つるし雛まつり」となった。また、大人だけでなく、子どもたちに民話を語ってもらう「子どもの民話会」も恒例行事となっている。出演するのは小学2年生の子どもたち。恥ずかしがってしまうのかと思いきや、みんな話したくてうずうずしているというから、頼もしいことである。

年に数回は保育所の子どもたちを招き入れ、ご祈祷にも参加してもらっている。約30分間、子どもたちは騒ぐことなく、お護摩の火をじーっと真剣に見つめているのだそうだ。子どもに仏教的な空間はふさわしくないというのは案外、大人の思い込みなのかもしれない。小さい頃から〝ののさま〞が身近になってくれるのは嬉しいことだ。

◆まずは仲間となって

「よそのお寺さんだとご祈祷は10分くらいであっという間に終わってしまうのに、五大院さんではしっかりやって下さるのねって、いろんな方から驚かれるの。本当にこういうご住職でよかったですよ」と丹治さん。ご祈祷やお守りのお布施は、すべて縁日にかかる費用として使われている。

それに対して、「縁日の主役はあくまでも町の方たち。私にできることは、ご祈祷をすることだけですから」と語る鈴木さん。心をこめてご祈祷を行う宗教者への気持ちと、地域の振興に情熱を傾ける地域の方々への気持ち。「尊敬」というそれぞれへの思いは、この縁日を一層あたたかなものにしているように感じられた。

「お寺で何か行なうとすれば、お寺からではなく、まずは仲間をつくって、その仲間から始めてもらうのがよいのでは」と、鈴木さんは自身の経験を通じて仏教者にエールを送る。

仏教離れ、お寺離れが叫ばれて久しいが、お寺の敷居が高いことの理由のひとつに、住職の目線の高さを挙げる人も少なくない。お寺にこもって、関係者以外の人と接することがなければ、地域の人がどういう状況にあるのか、何に苦しんでいるのかなど、知ることも気づくこともできない。

金襴(の座布団から語りかける前に、仏教者はまず、固く閉ざしたお寺の門を開くことから始めなければならない。

地域の子ども福祉ステーション―社会福祉法人 大念仏寺社会事業団― アイディアあふれる