仏教者の活動紹介

こころと身体を育むお寺 ―宗蓮寺子ども会

(ぴっぱら2014年3-4月号掲載)

空を見上げると、雲ひとつない青空が広がっている。岡山駅から電車で走ること20分。田園風景が広がる一角に、日蓮宗宗蓮寺はあった。近隣には桃太郎伝説で有名な吉備津神社が、また、羽柴秀吉による水攻めの史実が伝えられている備中高松城址、日本で4番目の大きさを誇る造山古墳があり、古の気配を今に伝えている。雨の日が少なく日照時間が長い岡山は「晴れの国」と呼ばれているそうだ。からりと乾いた空気感はどこか世離れていて、訪れる者のこころを解放してくれる。

お寺の山門には、掲示伝道のご法語とともに「入会いつでも歓迎!」と書かれた案内板が掲げられている。ソフトボールにバスケットボール、空手と、まるでスポーツクラブのようだ。

住職の垣本孝精さんが「宗蓮寺子ども会」を始めたのは、今から45年ほど前のこと。20代の青年僧だった垣本さんのこころにあったのは、「お坊さんとして、自分には一体何ができるのだろうか」という思いだった。そのころ地域では、両親の勤めのため留守番をする「鍵っ子」が目立つようになっていた。よし、子どもと遊ぶことならできる。子どもが集まれる場所を提供しよう。そう考えた垣本さんは、スポーツなら子どもが気軽に参加できるのではと、ソフトボールのチームをつくった。

「お寺ってなんとなく敷居が高いでしょう。お経やお坊さんのお話だけでは、子どもが来づらいんじゃないかと思ったんです。小さいうちからお寺に通っていれば、お寺にも、お題目にも親しんでもらえますよね」

◆スポーツ中心の子ども会

DSCF0406.JPG時は昭和40年代。珍しさもあって、続々と子どもたちがお寺に集まってきた。小学校のグラウンドを借りて活動していたが、数年後には自治体の協力もあって、お寺の近くにある河川敷を保護者らとともに整備し、専用の練習場を得ることができた。

人数が増えるうちに、女子でも参加しやすいスポーツはないか、と考えるようになった垣本さん。檀家さんのなかに、全日本総合バスケットボール選手権の元選手がいたことから、バスケットボールのチームも始めた。こうして、多いときには70人もの子どもたちが、お寺のスポーツチームで汗を流すようになった。

現在では、副住職の良明さんが指導する空手、また奥様のえみ子さんが指導する和太鼓も、子ども会の活動に加わっている。
土・日はソフト、水・木・土・日はバスケ、火曜は和太鼓と、お寺を目指して毎日のように子どもたちがやってくる。「OB・OGが育ってくれてからは手伝ってもらえるので、大分楽になりました」と垣本さん。子ども会があるからと、檀家さんや保護者など多くの大人も関わるようになった。

◆夏休みは毎日お寺で

IMG_1789.JPGスポーツが中心なので、どうしてもチーム単位での活動が多くなる宗蓮寺の子ども会。普段は別々でも、せっかくなので全員でできることはないか......。そんな気持ちから生まれたのが、夏季の特別プログラム「宗蓮寺in夏休み」である。よくある夏休みのお泊り会かと思いきや、活動日は夏休み中ほぼ毎日、休みは月曜日とお盆の数日のみという、実に「スパルタン」なプログラムだ。

朝7時半。眠たい目をこすりながら、お寺に子どもたちが集合する。朝のお祈りの後、1時間弱のランニングがスタート。坂道あり、階段ありのコースでは、毎年、子ども同士の助け合いなど、さまざまなドラマが生まれるという。

IMG_3444.JPG十分に身体を動かした後は、境内にある建物、通称〝寺小屋〞にて、みんなで夏休みの宿題をするそうだ。「学校の先生たちから、宗蓮寺の子どもはドリルの答えがみんな一緒。間違っているところまで一緒!と言われていたようです」と垣本さんは笑う。和気あいあいと机に向かう、子どもたちの姿が目に浮かぶ。

その後はスポーツの練習をしたり、6年生はお寺の夏祭りで披露する「子ども芝居」の練習をしたりして、お昼ごろ解散となる。
夏休みとは思えないような規則正しいスケジュールである。子どもたちも偉いが、毎日受け入れるお寺の方も、覚悟がなくてはとてもできない。

◆しつけの大切さ

垣本さんが願っているのは、子どもたちの「早寝、早起き、朝ごはん」の実践だ。「9時以降に寝るのはダメ」「朝ごはんは食べるように」と、垣本さんは子どもたちに言い聞かせている。「何時に寝たかのカード」を作って提出させるほどの徹底ぶりだ。

約束通り早寝早起きを心がける子どもたちだが、お盆休みの後には、必ずといってよいほど体調を崩す子が出てくるのだという。「お寺に来ない数日間、夜更かしをして美味しいものを食べてと、生活のリズムが崩れてしまうのでしょう。でも、今は親御さん自身も夜は遅いですし、子どものことはともかく自分が遊びたいという親御さんもいる。困ったものです」と垣本さんは語る。

さらに、挨拶ができない、靴が脱ぎっぱなし、ごはんをいただくときに立てひざをしてしまうなど、親が教えなくてはならないことを、子どもたちが教えられていないと思うことが増えているのだそうだ。

「大切なお子さんのいのちを預かっている」という認識の垣本さんは、保護者会や忘年会などを定期的に開き、親御さんと交流したり意見交換をしたりする機会をつくっている。しかし、「この親御さんとはぜひ話をしなければ」と思う人に限って、参加してくれないのだという。
子ども会を、ただの子どもの預けどころにはしたくないという思いは、しつけや礼儀作法を教えるための合宿「三日坊主の集い」として近年、実践されている。

◆仏さまは見ていてくださる

夏期の特別プログラムと平行して行われるこの合宿では、早朝の水行、掃除、本堂でのお勤め、食作法など、お寺ならではの体験が盛り込まれている。
今、私たちが口にしているごはんが食卓に上がるまで、いったいどれだけの過程があるのか。いかに多くの人が関わっているか。生き物のいのちを大切に感じられているか。お父さんお母さんに感謝できているか...。そうしたことを一つひとつ、垣本さんは子どもたちに問うている。6年前から始められたこの合宿は、毎年断らなくてはならないほどの希望者が学区外からも集まってくる。

人と人との関わりが極端に減ってしまっている今、自分たちを見守り時には叱ってくれる存在を、自ずと子どもたちは求めている。叱ってもらえるということは、自分の存在が受け止められ、未来を一緒に考えてもらえることに等しい。親にとっても、真剣に子どもに向き合う指導者の姿に勇気づけられることだろう。

子どもを中心に据えたその思いは、子ども会のあり方にも反映されている。宗蓮寺子ども会で一番新しく作られたのは和太鼓のチームだが、これはスポーツの苦手な子どもや、発達障がいなどをもつ子どもでも楽しめるものをと始められたものだ。

「障がいのある子どもたちは、ほかの子のように『楽をしよう』とか『目立ちたい』などと思うことなく、懸命に太鼓に打ち込んでいます。一生懸命にやったことは、仏さまがちゃんと見ていてくださっている、自分のこころに嘘をつくことなく、何事もひたむきに取り組むことが大切なんだという、まさに私が子どもたちに伝えたいことを、彼らは体現してくれているのです」と、垣本さん。

長年にわたる活動の中で、その情熱はいっそう増しているかのようだ。宗蓮寺のように、世のすべてのお寺が門戸を開き、次世代の育成に取り組むことを願ってやまない。

子どもたちに第2のふるさとを ―児童養護施設 手まり学園 アジアはこころで結ばれる