仏教者の活動紹介
光が当たらないところに光を ―覚成寺フレンズ―
(ぴっぱら2006年3月号掲載)
街を通り過ぎずに
東海道新幹線に乗って西へ向かう。のぞみも増発され、とにかく「少しでも早く・もっと近く」が優先される世の中では、列車が猛スピードで通り過ぎていく幾多の街の中に人々が同じように暮らしていることを見失いそうになる。
そんなときは、途中の駅で降り立ってみよう。よそものにはいずこも同じように見えても、どの街も、異なる地形の中で、それぞれ異なる歴史を重ねてきたことに気づくだろう。
新幹線では京都の隣駅となる米原駅に降り立ち、東海道本線に乗り換えると、列車は揖斐川や長良川に育まれた肥沃な土地を進むことになる。秋には、刈り取られた稲穂が田のあちこちに積まれるのだろう。そんな空想を裏付けるような名の穂積駅に降り立つと、つるりとした頭に衣を着た男性が笑顔で迎えてくれた。
「このあたりも、だんだん郊外型の大型店舗が増えてきました。便利なようだけれど、自動車で出かけられないお年寄りにとっては、必ずしもいいことばかりではないですよね」
運転しながらそう話してくれたのは、浄土真宗本願寺派覚成寺の副住職、大平一誠さんだ。穏やかで丁寧な口調で語られる地域のようすなどに聞き入っていると、広々とした田畑の中に、さながら砂漠のオアシスのように緑の木々に包まれた寺院が見えてきた。
学校では学べないこと
大平さんの父である住職は長年、土曜日にお経教室を開催してきた。毎週、小学生の子どもを中心とした10人ほどの参加者とともに正信偈などの練習を重ねてきたが、子どもたちは、小学校を卒業するとお寺に来る機会がなくなってしまう。大平さんはそれをずっと残念に思っていた。
そんな中、2002年、本願寺派の仏教青年連盟主催の「全国真宗青年のつどい」が岐阜で開かれることになり、大平さんが実行委員長を務めることになった。だが、全国から寺院の青年会が集う大会を運営する立場なのに、自坊には青年会がない。そこで、お経教室を卒業した子どもたちに呼びかけて生まれたのが、中学生4人が中心となった青年会「覚成寺フレンズ」だった。
この時の大会テーマが「同和」だったことから、自然にフレンズの関心も差別・人権問題に向いていくこととなる。月1回、差別などがテーマとなった映画を鑑賞しての勉強会などを開く中で、無関心でいることの怖さを知った子どもたち。知らなかった現実を知ったことで「では自分達に何ができるか?」「お寺の中だけでなく、実際に活動しよう」と子どもたちの意識が変わっていった。
自分で何かはできなくても、活動している人を支援することはできる。そんな思いから、アフガン難民救済活動をしている堀川ひろ子さんの支援を始めた矢先に起きたのが、2003年3月の米英軍によるイラク攻撃だった。
大平さんの知人であるフリーカメラマン・久保田弘信さんが戦禍のイラクから故郷の岐阜に戻ったのを機に、現地の様子を知る報告会がフレンズの手で開かれた。初めて聞く話のリアルさに衝撃を受けた子どもたちは、「自分たちも何かしなくては」という思いに駆られ、チャリティーバザーを開催。予想外の盛況となったことで、子どもたちの自信になったという。
この報告会を機に、子どもたちの関心は戦争や平和の問題へと移っていく。大平さんと、ともにフレンズを支えている夫人のゆう子さん(大平さん曰く、「大平一誠」という名はいわばゆう子さんとのユニット名なのだとか)は、自分たちの人脈や知識を活用しながら、子どもたちの関心に応える企画を提示しているという。
「光が当たらないところに光を当てたいと思っています。学校では学べないことをここで学んでいってくれたら」と大平さんは語ってくれた。
この4年余りの子どもたちの活動内容からは、そんな大平さん夫妻の思いが確実に子どもたちに伝わっていることがわかる。「国境を越えた仲間づくり~みんな同じ地球人~」「バングラディッシュのお坊さんとの交流会」「おいしいしあわせに国境はないのヨ~」「しっていますか?脳外傷」など、国境や差別など、人が勝手に、あるいは無意識に引いた境界を知って、それを乗り越えようとする企画が多い。それは、自らもNPOや市民活動に参加し、「9map」として数百人とともに平和の願いを歌ったチャリティーCDを作成するなど、寺や宗派・社会的立場といった枠を越えた活動をしている大平さん自身のあり方が、子どもたちにも反映しているのかもしれない。
枠や境界を乗り越えて
やがて、新中学生がフレンズに参加するようになると、彼らは自分の友だちを連れてくるようになる。お経教室出身、つまり寺の門徒の子どもが中心だったのが、寺とは縁のなかった子どもたちも集まるようになった。門徒だとか寺だとかを意識するのは大人だけで、子どもたちにとっては何ら敷居も抵抗感もないということなのだろう。
子どもたちが軽々と「門徒」と「門徒以外」という垣根を乗り越えたことで、大人も次第にそんな枠を越えた寺との付き合いを始めるようになった。門徒でも寺とは疎遠だった人が、フレンズのイベントを機に寺に足を運ぶようになったり、法話会などでずっと寺に関わってきた人たちが、門徒以外の人とも交流をもつようになったり......。
大平さん自身、寺の中に限らず、僧侶が、宗派などさまざまな枠にとらわれることに疑問を感じているという。
「○○の所属だからしてはいけない、行ってはいけないというのはすごくもったいないと思います。最近は各地のお寺で子ども会やイベントを行っていますが、各寺が自分でいろいろな会を運営しなくても、『あの寺では今こんなことをやってるよ』『うちではこんなことをやるよ』と紹介し合い、互いに特色を出し合って補完し合えるようなネットワークを作ればいいのではないでしょうか。
電車に乗っていると、寺があちこちにあるのが見えますよね。そのお寺の数だけ、さまざまな仏教があるんだな、といつも思います。それぞれが得意なことをやって、いいものをシェアし合っていけたらと思うんです」
宗派や寺院の枠にとらわれず、子どもや門徒の関心に合わせて寺をよりオープンな場にしたい。そんな思いをもちながら、これからもフレンズの子どもたちとともに、「自ずと出会ってしまう」課題に向かっていきたいと大平さんは語ってくれた。
また、枠にこだわらない大平さんにとって、サマースクールのボランティアを機に出会った、超宗派である全青協の活動はとても魅力的に映ったようだ。現在、ぜひ東海に青少協を作りたいと活動を始めている。
「子ども会などの活動は、お寺を維持する次世代を育成するためなどという『こちらの都合』ではなく、『子どものため』でないとつまらなくなってしまう」自らの経験も踏まえてそう語る大平さん。フレンズの子どもたちのためにしてきたように、枠にとらわれずに、子どもたちのための活動をこれからも広げていくことだろう。(渉)