仏教者の活動紹介

地域に生きるお寺として ―曹洞宗 宗徳寺―

(ぴっぱら2003年2月号掲載)

門のない寺で

北アルプスの山麓に広がる信州安曇野。のどかな田園風景、青空に浮かび上がる北アルプスなどの自然が豊富なこの地には、各地から訪れる旅人や観光客が後をたたない。
そんな中にある宗徳寺もまた、人の出入りが絶えない寺だ。門がなく、垣根の低いこの寺には、子どもからお年寄りまでが自由に出入りしており、昔はどこにでもあった風景がこの寺にあると感じさせる。
住職の寺口良英師と夫人の芳子さんは、全国的なネットワークで不登校や非行に走る子どもたちの問題解決にあたっている民間団体の活動に関わったり、財団法人「育てる会」の世話役(受入れ先)を97年から引き受けており、数多くの若者たちと長・短期で生活を共にしてきた。
また「お寺は地域にどう活きるかが大事」と話す住職は、その言葉通り、定期的に子ども会を開催し、坐禅や写経を通じて、青少年育成に力を注いでいる。

子どもたちとともに

「お寺の畳なんか汚すもの。子どもたちが汚すから境内に入れないなんてもってのほか」「同じ屋根の下にいれば(よその子でも)家族と一緒」と熱く語る芳子さんは、実家が松本市内のお寺で、戦後、戦災孤児を何人も面倒をみた両親の下で育った経緯がある。住職も、駒沢大学在学中には児童教育部に所属し、青少年教化の必要性を感じ、研鑚を深めた。
夫妻には辛い過去がある。4人授かった自分の子どもたちのうち三男の良文さんは、小学3年の時高熱によって障害を持った。それ以来学校でのいじめ、高校中退などつらい時期を過ごし、他界したのだ。
そうした経緯の中で、自分と同じように子どもの養育に苦しみ悩む親たちのことを知った。このことが現在の活動をするきっかけになったそうである。
あるとき住職は、不登校の子どもに「毎日お寺の鐘を撞いてくれんか」と言葉をかけたことがある。以来彼は、学校には行かなくても、雨が降ろうと雪が降ろうと欠かさず境内の梵鐘を撞いてくれるそうである。宗徳寺の長年の活動に裏打ちされた、地域との自然な信頼関係があることに気付かされた。

どこからでもどなたでも

さらに宗徳寺の活動は多岐に渡る。10年ほど前、JAの訪問介護に携わっていた芳子さんの提案で、地域のお年寄りを対象に「あんしん広場」を立ち上げた。この会のモットーは「どこからでもどなたでも」。毎月10日と20日に必ず開催されるこの会は、おしゃべり広場、お茶会、井戸端会議などのネーミングでそのつど趣向を変え行なわれ、定着しつつある。
なによりも驚きなのが「わしらがいなくても勝手にやるだよ」という住職の言葉どおり、住職や芳子さんが不在でも、ボランティアや参加者の手で自主的に寺を場として会が行なわれている点である。ここにも地域密着の活きた寺院の姿が見られる。
参加者からも「こんなのやってほしかっただわ」という声が聞かれる。バイタリティーあふれる住職夫妻の活動には、頭が下がる思いがした。(総)

(ぴっぱら2003年2月号掲載)
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