仏教者の活動紹介
自分作り・人作り・地域づくり ―宝蔵寺 筏の会―
(ぴっぱら2001年8月号掲載)
人生をいきいきと
茨城県猿島郡三和町――中仙道沿いに開けたかつての宿場町に、宝蔵寺は地域社会の核として存在している。住職の湯澤宥宏さんは在家の出身。母方の実家がお寺だったことから、2年間のサラリーマン生活を経て得度し、縁あって宝蔵寺に入山することとなった。
その後、「いきいきと人生を歩みたい」という思いを強く抱いていた湯澤さんは、地元のJC(青年会議所)に加わり、青少年研修や環境問題などに精力的に取り組み始める。
「JCには会の運営に関して、すべてのメンバーの意見を聞くシステムがあるんですよ。会議に欠席した人がいれば、電話をしたり自宅を訪ねて行ったりして、メンバー全員の意見を汲み上げるようにしているんです」
思いを同じくする仲間と共に行動することの大切さや楽しさを、9年間の活動の中で湯澤さんは学んだという。その実感は、「自分の資質の向上は、他人の資質の向上と共にあるんです」という、ご本人の言葉に表れている。
人とつながること
やがて湯澤さんは、お寺の中でも仲間と共に行動したいと思うようになった。地域の友人などに呼びかけ、平成7年に壇信徒青年会「筏の会」を発足させることになる。そして、会の設立にあたりこんな目的を掲げた。
- 仏教の教えを基本にして人生を楽しむ
- 個々の資質の向上をはかる
- 地域の人々の心を清らかにする
- 地域社会の文化の向上をめざす
- 寺門の興隆に寄与する
「人がだんだん地域社会と関わらずに生きるようになってきていますが、それでは人生のほんとうの豊かさは生まれません」
人はさまざまな縁の中で生かされているのだということを、湯澤さんはさかんにうったえる。語り口調はとても穏やかだが、仏教の基本である「縁起」という理を日常生活の中で体現しているようだ。
その思いは「筏の会」のさまざまな活動の中に生かされている。ジャズ・ミュージシャンをゲストに迎えて行う「弘法大師をたたえる夕べ」(6月)、一泊二日で行う「わくわく寺子屋道場」(7月)、宗教者の対話の場である「宗教フォーラム」(11月)など、人と人のつながりを深めるさまざまな行事が、会のメンバーによって運営されている。
「わくわく寺子屋道場」は、「子どもたちの中に思いやりの心を育てたい」という願いのもとに、地元の小学生を対象にして開催されている。5回目をむかえた今回は、30名ほどの子どもが参加し、読経、坐禅、紙芝居、ネイチャーゲーム、そば打ちなどを行った。二日目の最後には発心式が行われ、仏とのご縁が結ばれた。
「子どもたちはとてもパワフルですよ。テレビゲームや小遣いを持たなくても、みんなとても楽しそうです」「今の親は子どもの言葉に、ダメ出しばかりをします。褒めることをもっと大切にしないといけませんね」と、湯澤さんは、現代の親子関係について指摘する。
「高校生になった寺子屋の卒業生が、弘法大師をたたえる夕べに参加してくれたんですよ」と嬉しそうに語る湯澤さん。自身が目指す「自分作り・人作り・地域作り」という思いが着実に実りつつあるようだ。(神)