仏教者の活動紹介

地域とともに歩む ―法田寺―

(ぴっぱら2001年6月号掲載)

子どもたちとともに

ひっきりなしに車が行き交う国道をたどっていくと、ふいに「天竺」の文字の看板が目に飛び込んできた。神奈川県川崎市、JR平間駅から5分程歩いたそこが日蓮宗法田寺だ。「天竺釈迦堂」と書かれた建物の入り口には、子どもたちの自転車が数台整然と並べられ、10足ほどの靴が揃えられている。中からは時折威勢のいいかけ声が聞こえてきた。
寺の敷地内にある釈迦堂に空手道場が開かれるようになったのは、10年ほど前、岸顕雄住職の息子さんが受けたいじめがきっかけだった。自らを守り自信をつけるために空手を習わせようとしたところ、先生から「せっかくだから寺という場を使わせて欲しい」という申し出があったのだという。
「正座をしたり、返事や挨拶をきちんとすること。汚したら掃除をすること。そういった規律は仏教と相通ずると思う」と岸住職は言う。場所をただ貸すのではなく、寺との共催という形をとっているのは、「お金で貸し借りするのは嫌だったから」ということらしい。住職のこのようなスタンスは、この空手道場のみならず、寺とリンクした組織「でんでん虫」が行うさまざまなイベントにも共通しているように思われた。

檀信徒だけでなく

前住職が亡くなった二年前、岸住職の入寺式を準備した実行委員会が母体となって、地域の人と壇信徒が一緒に運営する組織「でんでん虫」は生まれたという。「檀信徒ではない地域の人間も、気兼ねなく寺に顔を出したい」、そんな友人の声が「でんでん虫」発足のきっかけだったそうだ。 当初は壇信徒のみで組織しようという話もあったが、「現在、年3000円の会費を払っている会員のうち9割は壇信徒ではないんですよ」というから、地域に門戸を大きく開いたのは正解だったようだ。
現在、でんでん虫が主に行っているのは、春の花祭りと秋のお会式、そして夏の納涼会だ。花祭りとお会式は、子どもたちが参拝する法要を始め、縁日のように食べ物やゲームなどの出店が出る。壇信徒やでんでん虫の会員のみならず、子どもも大人も集う地域のイベントなのだ。どちらも、最後に行われる住職とのジャンケン大会が子どもたちにとても人気なのだという。一方、納涼会は会員中心の焼き肉大会で、これが楽しみで会員になる人もいるのだそうだ。
「空手道場は息子のご縁、でんでん虫は亡くなった父のご縁」という岸住職だが、いずれも「お経ではなく、会話で人とつながっていきたい」という住職の思いによって続いているように思われた。
また、でんでん虫を通じてつながりが深まっている地元の商店会や消防団・自治会などと協力し、何かイベントがある度に気軽に備品や場所・人手を貸し借りしているのだという。都会ではあまり見られないような地域との密着。しかし、これが本来の寺院のあり方なのだろう。空手の稽古を終えた子どもたちの「住職さんさようなら」という声が境内に響くのを聞きながら、そう感じた。(内藤)

(ぴっぱら2001年6月号掲載)
寺の枠にとらわれずに ―神宮寺― 自分作り・人作り・地域づくり ―宝蔵寺 筏の会―