教育セミナー
2006.07.20
第8回「引きこもりからの旅立ち―Part3―」
「ひきこもる若者たち」をテーマに、7月20日海の日に『home』上映会とライブトークを山陰の片田舎、鳥取県東伯町・まなびタウンとうはくで開催しました。人口一万二千人の小さな町のイベントとしては、170人の入場者数も、その熱い反応も予想以上でした。
小林貴裕さん・博和さん この企画は、全青協と私たち鳥取県青少協との共催で立ち上げた企画でしたが、この早春、全青協からお話があった時点では、自信を持って取り組めるような状況ではなく、即答ができませんでした。「ひきこもり」については、私たちの地方も重い話題となりつつあり、社会的な課題として、教育関係、民生関係で学習が始まりつつあり、正しい社会的認識が急がれていることは重々承知していました。
私たちの組織の面の事情が即答を躊躇させた理由でした。鳥取県青少年教化協議会(鳥取青少協)は齋尾弘忍師(鳥取県北条町、松岸寺住職=平成13年、81歳で遷化)を中心に、三十余年にわたり活発な活動を続けてきた、全青協の一支部です。齋尾師とそのメンバーは、鳥取県の青少年教化の牽引者たちであり、オピニオンリーダーたる存在でした。全青協との連携による「現代名僧墨蹟展」の開催は、倉吉市から北条町、そして東伯町と県中部で会場を移してきましたが、この地方の町では画期的であり、注目されたイベントです。この事業を主軸に置きながら、すわらじ劇団の招待公演、お寺の子供会、花まつり、成道会などなど目ざましい活動が展開されてきました。しかしながら、時代の流れか会員の新陳代謝が進まず、ここしばらくは、休眠に近い状態だったようです。
齋尾師は病床にあっても、これが気がかりだったようで、お見舞に行くたびに、鳥取青少協の歴史を熱く語り、将来を憂い、「何とかしてくれないか」と訴えられたのです。私は会員でもなく、ただ隔年の名僧墨蹟展にボランティアとして、ここ25年程お手伝いをしてきた程度の関わりでした。
師の御遷化のあと、このことが頭を離れず、組織としての形は不完全なまま、ボランティアが結集し、墨蹟展の開催と青少年教化事業への応援を継続してきました。
そしてこの春、ボランティアメンバーが集い、15名で再スタートすることにしたのです。
全青協から「ひきこもり」の企画が打診されたのは、ちょうどそのタイミングだったのです。「組織再スタートのイベントと位置づけたらどうか」というお話は誠にありがたいもので、メンバーに異存なく「とにかくやろう」ということになりました。
四月、全青協の神氏、藤木氏の来鳥をうけ、会場下見、打合せを行ない、正式に動き始めました。幸いなことに、メンバーに民生児童委員や教育委員、保護師等が多く含まれ、それぞれ、このテーマに深い関心を持っている上に、後援団体との折衝も比較的容易でした。会場となった生涯学習センター「まなびタウンとうはく」所管の東伯町教育委員会を皮切りに、鳥取県、倉吉市、赤碕町、大栄町各教育委員会、県中部仏教会、東伯町、赤碕町、大栄町各民生委員児童委員協議会、新聞社、テレビ局の後援がいただけました。
作成した案内パンフは1000枚、入場整理券(無料)は約350枚配りました。あとは当日を待つのみです。
7月20日、豪雨。連休で様々な行事もあって、来場者は......と気がかりでしたが、午後1時30分会場に、午前中から弁当持参で開場を待つ人がある程で、熱意に感動しました。
『home』の上映は重い緊張感の中で行われました。現実を見ている当事者の立場の来場者の数がそうさせたと感じました。引き続き、この作品の監督・小林貴裕さんと出演者である兄、小林博和さんをゲストに、全青協神氏を軸として、約一時間半のライブトークに入りました。
真剣に聴く来場者、真剣に、誠実に語る小林兄弟。席を立つ人はもちろん、私語もない張りつめた雰囲気の時でした。『home』の中で、あれほどの荒々しい凄味を見せた兄が、冷静に自分の内面を語り、カメラを覗きながら、客観的でありながら暖かく兄と家族を見つめた弟が、この場でも兄を思いやる口調と姿勢に、心が動きました。兄の動と弟の静、それを取りもちながら本質に迫ろうとする神氏の司会もお見事でした。
対談のあとの来場者からの質問も「ひきこもり」の根本にかかわる鋭いものでした。
熱いトークのあと、ロビーで引きこもり当事者のすがるような質問に耳を傾け、穏やかに答える小林兄弟の姿は立派でした。
開場の後片付けを終えて、私たちメンバーは、爽やかな満足感で解散しました。この小石が静かな池に美しい波紋を広げることを念じながら――。