東日本大震災支援
2013.04.25
被災地高校生の現在―2つの支援から見えてきたもの
東日本大震災から3年目の春を迎えた東北では、桜前線が北へとのぼり、あたたかな日差しにつつまれています。
宮城県石巻市―震災による被害が最も大きかった場所の一つとして、震災発生直後より行政・団体・市民ボランティアによるさまざまな支援活動が展開されてきました。全青協スタッフも、これまでに避難所や仮設住宅、保育所などを訪問し、お茶会や花まつり等の開催を通じたこころのケアを実施しています。
今年の3月11日を仮設住宅のなかで迎えたという男性は、石巻市の現在の様子を次のように語ってくれました。
「震災から2年が経過して、少しずつ手を引いていく団体が多いね。ボランティアにかけられる予算も人も不足してきていて、できる支援活動の内容が限られてきているんだ...。みんななるべく行きやすい場所に、お金のかからない方法でと活動するもんだから、支援の集まるところには人も物も来るけど、何もないところはそのままだ。こんな状況で、仮設住宅の隣の人がアパートや新しい家に引っ越していくと、自分は何で...って気持ちになってね。他人と比較して自分を責めてしまう人がでてきているんだ」
〝復興〞という目標に向かって進む被災地。その陰には、途中で見捨てられないかという不安や焦り、また頑張っても報われないことに対する虚無感とあきらめを抱える人が存在しています。
◆被災地高校生の〝本音〞とは
苦しい想いは高校生のなかにもありました。今年、全青協が石巻市の高校生を対象に実施したアンケートからは、自尊感情を抱くことができない生徒が数多くいることが分かってきました。
自尊感情(自尊心)とは、自分自身を基本的に価値あるものと認識する感覚のことを指します。人は自分の存在をありのままに認め、信頼することによって、人生のなかで意欲的に経験を積み重ね、自己に対しても他者に対しても受容的な態度をとることができます。
特に高校時代は「自分って何だろう?」「社会の中で自分なりに生きるにはどうしたらいいのだろう?」といった問いを通して、自分自身を形成していく時期にあたり、このときに自尊感情を高めておくことは、後のライフステージに大きな意味を与えます。しかし、アンケートからは、石巻市の高校生の多くが「ほかの人に比べて良いところがない」「自分はこのままではいけない」と感じている傾向が見えています。
また、対人的なコミュニケーションを苦手に感じる高校生が、大勢いることも分かってきました。自分の想いを上手く表現できないため、本音をこころの奥にしまってしまう生徒や、「生きている理由がわからない」「やる気がでない」といった深刻な悩みであっても、身近にいる親や友だち、学校の先生には相談できずにいるようです。
元気そうな笑顔を見せていても、こころのなかではいまの自分の状態を否定してしまったり、辛い感情をためてストレスを抱えていたりという高校生の姿が明らかになってきました。
◆改めて学ぶ「コミュニケーション」のコツ
こうした高校生の現状に対応すべく、全青協では「こころのケアと進路支援」を行っています。
対人関係の場面を想定した、コミュニケーションスキルアップのための講座を開催することで、人と関わり合うことへの苦手意識をなくし、家族や友だちとの日常会話の場面や、進学や就職の際の面接試験に役立ててもらいます。また、自尊感情を高めるためのワークショップを導入し、ストレスやこころの不安の軽減を目指しています。
講座は私たちが作成した『コミュニケーション・ガイドブック』を手引書に、3つのレッスンにわかれて進められます。
レッスン1では、「傾聴とセルフケア」をテーマに、〝聴く〞と〝聞く〞の違いを学習し、自己紹介や他己紹介を通じて、傾聴の効用について体感していきます。
レッスン2の主題は「ノンバーバル(非言語的)・コミュニケーション」。姿勢や表情をよくするためのストレッチで体をほぐした後は、円滑なコミュニケーションづくりに欠かせない笑顔の効果について、グループワークを通じて再認識していきます。
最後のレッスン3では、「バーバル(言語的)・コミュニケーション」として、コミュニケーションに用いる言葉の選び方や、伝え方などを学びます。まずはワークによって、自分自身のことをある程度理解したうえで、どうすれば相手に自分の良さや意図が伝わるように話せるのかをトレーニングしていきます。
年明けから現在まで、全青協スタッフは石巻市内の公立高校を巡回し、これまでに約150名の高校生に講座を受講していただきました。「笑顔をつくるワーク」など、普段の授業では習ったことがない内容に、最初はとまどいや恥じらいを見せる生徒もちらほら。
しかし、講座が進むにつれて、グループワークの際などには生徒から自然と拍手が沸き起こり、そこかしこで感想が述べ合われました。自分自身の感情を解放させ、相手の言葉に真剣に向き合う様子が見られ、会場は熱気に包まれていました。
受講した高校生は「講座を通じて自分自身をしっかりと見つめられて、自分の気持ちが明るくなってきて......これからの人生で辛いことがあったときでも、学んだことを思い出して、がんばりたいと思うようになりました」と語っていました。
◆未来へ希望をつなぐために
被災地の高校生が、自尊感情やコミュニケーション能力に不足を感じている背景には、狭い仮設住宅の生活でプライバシーが保てないことや、両親の失業によって先の見通しが立たないなか、進路決定を行わなければならないことなど、震災による急激な環境の変化があるようです。
こうしたストレスや苛立ちが高校生のなかにさまざまな葛藤を生み、自分自身にじっくり向きあえずにやる気が起きなかったり、自信を失い、周囲とのつながりを上手く築けなかったりという悪循環を生み出してしまっています。
これらを断ち切り、高校生が将来への希望と、自分自身の力で一歩前に進む意欲をもつためには、精神面でのサポートだけではなく、経済的な安心や支えを感じられることも大切です。
全青協が関連団体と協働して昨年4月より始めた、給付型の「あおぞら奨学基金」では、初年度は21名が奨学金を受給し、うち12名が今年3月に高校を無事卒業することができました。
卒業生はそれぞれ、大学や専門学校への進学、地元での就職など、新たな人生の門出を迎えており、奨学金の存在が励みとなって進路を選択することができたとの嬉しいお便りも届いています。
スタッフが高校を訪問した際には、「奨学金を受けられて......両親も私も本当に感謝しているんです。家はまだまだなんですけど、家族で一緒に頑張っていこうねって話をしていて。そのことをどうしてもみなさんにお伝えしたくて」と、自らそんな言葉をかけに来てくれた女子生徒の姿がありました。
こうした声に逆に勇気をもらいながら、現在事務局では新たな奨学生を迎え入れる準備を進めています。
全青協では、今後も被災地で暮らす高校生に対しては「こころのケア&進路支援」「あおぞら奨学基金」の2つの事業を柱にサポートを行っていきます。子どもから大人への階段を上る高校生――その背中をそっと一緒に後押ししてくださるみなさまに感謝いたしつつ、さらなるお力添えをお願いする次第です。
※この事業は、(財)JKA(競輪)の補助を受けて実施しています。
全青協では「あおぞら奨学基金」のサポーターを募集しております。
あおぞら奨学基金に関する詳細はこちら
お問い合わせは、〈事務局〉03―3541―6725まで