災害緊急支援
2024.05.07
能登半島地震災害支援-被災した子どもたちへ教育を!
ゆく川の流れは絶えずして
しかも もとの水にあらず
淀みに浮かぶうたかたは かつ消え かつ結びて
久しくとどまりたる例なし
世の中にある人とと又かくの如し
鴨長明が著した『方丈記』の冒頭の一節です。天災が起こる度にこの一節を思い起こすのは筆者ばかりではないことでしょう。長明が生きた平安時代末期、さまざまな天災が続き、京の都を襲った大地震は、マグニチュード7.4ほどであったと推定されています。この元暦の大地震では、土砂崩れ、地割れ、津波などが生じ、寺社のは元の姿を残すものはなかったと長明は記しています。
日本は地震大国と言われて久しいのですが、未だに十分な備えが出来ていないのは何故なのか、疑問に思えて仕方ありません。
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今年1月1日の能登地震発生から早くも5カ月が経とうとしています。石川県庁の発表によれば、この災害によりお亡くなりになった方は、県内だけで245名(内、災害関連死15名)、負傷者1435名、安否不明者は輪島市で2名となっています。被災した住宅・商業施設などは合計で約10万棟に及ぶと報告されています(4月9日時点)。
また、各市町が開設している1次避難所への避難者は3351名、県が開設する1.5次及び2次避難所への避難者は、それぞれ86名、2603名となっています。未だに車中で生活している方々もおり、自主避難所や県外等への避難者を合わせると、およそ2万名の方々が、避難生活を送っていらっしゃいます。
珠洲市のある避難所の男性は、「4月に入ってからボランティアスタッフによる炊き出しがほとんど無くなってしまい、カップ麺などのインスタント食品を食べて過ごしています」と語っていました。被災地の一部では仮設住宅が完成し、入居する被災者の方々もいらっしゃいますが、現在完成している住宅は200戸ほどで、入居できずに順番を待たざるを得ない方々が大半です。
現在でも、珠洲市や輪島市、能登町、七尾市はじめ、金沢市内から10キロ程しか離れていない内灘町でさえも液状化を原因としてライフラインが復旧しておらず、公設や私設の避難所で困難な生活を送っている方々が多数いらっしゃいます。
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寺院の被害も甚大で、輪島市の総持寺祖院を含め各宗派の寺院が深刻な被害を受け、完全倒壊したお堂等も少なくありません。珠洲市では建物の下敷きになってお亡くなりになった寺院関係者も
いらっしゃいます。本堂が傾き使用できなくなった七尾市のある寺庭さんは、「皆さんのおかげで少しずつ片付いてはいますが、これからどうしたら良いものか途方に暮れています」と、ブルーシートが掛けられたいくつもの墓石の前で肩を落としながら語ってくれました。
また、輪島市や珠洲市の社会福祉協議会では、高齢者や障がいを持った方々の支援、ボランティアスタッフの受け入れ手続きなどに当たってきました。しかし、職員自身が被災者であり、能登半島外への避難や移住のため、そのおよそ3~4割の方が退職や休職に追い込まれています。県内外からの支援職員が入っているものの、そのほとんどが短期の支援であり、被災地で心身のケアを必要としている方々にとっては、とても不安な日々が続いています。
石川県の公式発表では、災害関連死は15名となっていますが、ここには自然死との間のグレーゾーンの方々は含まれていません。東北の被災地と同様に、今後、避難生活が長期化することによって、心疾患や脳疾患による急逝、うつ病により自死を選択する方々が増えていくことが十分に予想されます。
NHKが2月から3月にかけて、能登地方を離れ二次避難を続けている人を対象に実施したアンケート調査によれば、二次避難を決断・検討した理由については「水道が復旧しない」が30%、「当面、暮らせないと思った」が25%、「電気が復旧しない」が21%(複数回答)と、インフラなどへの被害で生活が困難になり、やむをえず能登地方を離れた人が多くみられました。
一方で、インフラなどの復旧が進んだあとの「将来住みたい場所」について聞いたところ、全体の81%が「被災前に住んでいた場所や同じ自治体に住みたい」と回答しています。
生まれ育った土地に愛着を持つのは当然のことであり、それが生業と関連している場合にはなおさらのことでしょう。多重の喪失・グリーフは、心身に過度な負担を強いることになり、ひいては命にかかわる事柄でもあります。一人でも多くの方々が被災前に住んでいた場所に戻っていただけるよう力を尽くしていきたいものです。そのためには政治行政の特段の配慮が不可欠です。
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前号でもご報告した通り、全青協では発災から10日経った11日から4日間、石川県の被災地に入り、被災寺院や関係者のお見舞いをはじめ、各次避難所の開設状況についての調査、県社協・市社協や災害復興本部を訪問しての災害全容の把握と緊急・復興支援のための情報収集等に努めました。また、スタッフや学生ボランティアが、2月、3月に、関係団体と協働して避難所への物資搬入や炊き出しを行っています。
また、3月末には2回目となる被災地調査を行い、併せて被災寺院への花まつり支援物資をお届けしました。3月31日には、金沢市内の金沢念法寺を会場として、第1回目となる「災害時のトラウマ・グリーフケア講座」を開催し、およそ100名の方々に、被災者のこころの支援のあり方について学んでいただきました。
参加者からは「傾聴や寄り添いについて具体的に学ぶことができた」「今後も継続して学ぶ機会を得たい」「少しでも被災者のお役に立ちたい」などの声が聞かれました。来る4月24日には、東京谷中の天王寺にて、協働団体の全日本仏教婦人連盟主催で「能登地震被災者支援のあり方」と題した仏教文化講座も開催されます。
災害時のトラウマは、非日常の経験と将来への不安などによって回避・・再想起等の症状によって現れます。突然の地震や津波の中で、いきなり非日常の世界へ放り出され、電気や水道もない中これから先どうなっていくのかという不安が、トラウマ反応に繋がっていきます。行政のスタッフといえども、被災者であることには変わりはなく、社会福祉協議会の職員のように職務ではあっても、被災者自身が被災者支援に力を尽くすくことは、とても困難なことです。
災害時には自助・共助・公助が必要とされると言われています。しかしながら、被災者自身ができることには限りがあります。ましてやこころの傷・トラウマを抱えている方の場合には、使命感に駆られて無理に頑張ることが、PTSDの発症を促し死に至る場合さえあるのです。災害直後には外部からの善意の第三者による支援がどうしても必要なのです。
被災地ではこれまで、幹線道路の被災状況やボランティアスタッフの宿泊場所が確保できないことなどから、およそ3万3千人のボランティア登録者のうち、7千人程しか支援活動に入ることが出来てきませんでした。
しかし、2月には珠洲市で旧中学校体育館にテント村が立ち上がり、3月末には七尾市の運動公園野球場に登山家の野口健さんらの支援により、100名ほどを受け入れることのできるテント村も開設されました。また、全青協が支援するウクライナからの避難生徒を受け入れている日本航空学園石川キャンパスも、これまでの中央官庁職員のみならず、一般のボランティアスタッフにも滞在場所を提供していく予定です。
今後も少しずつではありますが、旅館やホテルに加えて、多くのボランティアスタッフの滞在場所となる施設が増えていくことでしょう。避難所で生活する方々に、温かい出来たての食事を毎日取っていただけるようになるよう、第三者による継続的な支援が必要なのです。
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さて、これまでにもお伝えしてきましたが、全青協が全日本仏教婦人連盟、日本仏教保育協会と協働して進める 「子どもたちに豊かな地球をつなぐキャンペーン」では、1月24日に
東京都内で支援会議を開催し、次のような5項目の能登半島地震支援概要をまとめました。
①不足している生活物資の支援
②トラウマ&グリーフケアについての講習会の開催
③こころのケアに関するガイドライン冊子の配布
④定期的な炊き出しやイベントの開催
⑤経済的な困窮状態にある生徒への奨学金の供与
現状では①から④までの支援事業に着手していますが、まだまだ課題が多いのも実情です。特に、心のケアに関しては、発災から4カ月が経つ今、当初のトラウマ反応からPTSDという疾患を発症する時期に入っています。
東日本大震災の折にも、生徒と教職員合わせて84名の犠牲者を出した石巻市大川小学校の元小学生は、被災直後から言葉を失い、高校卒業時まで一言も語ることが出来なくなってしまいました。発災から6カ月後にある公立高校で取ったアンケート調査でも、「授業中ぼーとして意識が集中できない」「何のために生きているのか分からない」といった回避・麻痺反応を起こす生徒が多数いました。
子どもたちがPTSDを発症しないために、今まさに、遊びやレクリエーションなどを通じた心身の解放、そして思いや感情を自由に表現できる安心安全な場の確保が必要です。その場の一つとして寺院が機能できるように、講習会の開催やガイドライン冊子の配布などを通じて支援にあたっていく予定です。
また東北三県と同様に、今後の復旧復興の途上で、被災した方々の間で経済的格差が拡大していくことも予想されます。
被災地では、子育て世帯の流出が加速しており、輪島市内だけでも、転校などによって子どもの数は地震の前より4割近く減少しているとされています。慣れない避難生活と生活再建への不安はストレスを生みやすく、今後、家族の関係性にも影響を及ぼす可能性があります。東日本大震災後のように離婚家庭が急増し、経済的な困窮のなかで子どもを育てなくてはならない、ひとり親家庭の増加が懸念されます。
すべての子どもたちに平等に教育の機会を提供するためには、⑤の「返還不要な奨学金の供与」が重要な支援内容となっていきます。
全青協では、これまで協働団体と共に、被災地の子どもなどを対象に「あおぞら奨学基金」を立ち上げ、延べ1000名以上に奨学金を供与してきました。被災地では経済的な困難さから学業を断念せざるを得ない生徒が多数いました。奨学生からは、 「奨学金のおかげでアルバイトをせずに無事に高校を卒業できました」「将来は自分も困っている人の役にたてる人間になりたい」といった声が、毎年たくさん届いています。
この奨学金システムは、支援者と奨学生を一対一で結ぶ「あしなが」方式を取っています。支援者の方にはフォスター・ペアレントとして、匿名で子どもたちが高校を卒業するまでご支援いただいています。5月からは石川県教育委員会などを通じて奨学生の新規募集を行い、経済的に困窮している世帯の生徒を対象に、月1万円ずつの奨学金を供与していく予定です。
一人でも多くの方々に支援活動に関心を持っていただき、希望を失いかけている子どもたちの「今と未来」を応援して頂ければ有り難いことです。
(※お問い合わせは全青協事務局まで)