あおぞら奨学基金

2016.05.09

被災地の子どもたちの今 −これからの支援に必要なこと

チャイルドラインふくしま事務局長兼理事/曹洞宗復興支援室分室主事 久間泰弘

◆被災地の今、避難指示解除後の福島
 東日本大震災・東電第一原発事故から丸7年が経過しましたが、被災各地ではさまざまな状況を迎えています。
 福島県では、昨年の3月末から4月頭にかけて震災・原発事故以降に避難指定されていた各市町村における避難指示解除がなされ、その後それぞれに帰還が進められています。
 しかし、今年3月時点での帰還率は、いずれの自治体でも10%未満に留まっているのが現状です。その状況を裏付けるものとして、国と福島県で実施してきた、指定避難地域住民の帰還に関する住民意向調査があります。
 その中では、帰還を判断するために必要な条件として、「放射線量の低下の目途」「原発の安全性の確保」「社会基盤の復旧の目途」「医療、教育、介護・福祉サービスの再開」などが挙げられています。
 また、帰還後に実際に生活を送る条件は「放射線量の低下」、行政支援は「自営業再開への支援」「継続的な健康管理の支援」「市町村からの継続的な情報提供」との意向がありました。
 一方、帰還しない理由としては、「放射線量に不安がある」「原発の安全性に不安がある」が最も多く、未だに収束していない原発に対する不安や、国や政治に対する不信感が滲み出ています。
また、長引く避難先での生活の中で、子どもたちの成長や人間関係が構築され、今さら帰還できな
いという声も多いことも事実です。
 さらに、帰還する最大条件は「避難指示等の解除」だったのですが、実際の帰還率をみると、やはり放射能への不安や生活基盤整備の遅れなどの影響で、多くの住民は帰還する・しないの間で判断を迷っているのだと感じます。

◆子ども支援の現場から
 避難解除に伴う仮設住宅の統廃合によって、入居者は現在までにその多数が転居しました。まだ残っている子どもの世帯も、今夏までには転居する見込みです。
 その行先はさまざまですが、原発立地の福島県沿岸部への転居(帰還)は少なく、福島市や郡山市などの都市部に住宅を新築・購入した世帯が多数を占めます。災害公営住宅への入居も見られ、県外から県内都市部へ帰ってきた子どもも少数ながら存在します。
 ここで、支援の現場からみえる子どもたちの様子を列記します。
 ・原発事故による被ばくを避ける為に、一時期、屋外活動が制限された影響による肥満傾向は未だにあり、膝痛や足首痛を訴える子どもがいる。
 ・学習については、宿題・自主学習などのノルマ未達の子どもたちへの学校からのフォローが見られない。これは、サテライト校などの教員減少が要因の一つと考えられる。塾へも行かない(行けない)中で学力低下が心配される。
 ・T町では本校が再開し、遠方の避難各所からバスで本校行事に参加しているが、帰還した子どもはいない。
 ・異なる学区でも、中学生になると自転車通学が可能な距離なら自力で通学するが、小学生は難 
 元の学校の友だちと日常的に会うことが難しい状況であるのは、震災後からあまり変わっていない。
 ・支援活動の中で出会う子どもたちは、何事にも「受動的」でいるにもかかわらず、支援への要求(イベントや食物の質)は高いという面もみられ、"支援慣れ"の心配がある。
 ・小学生が、千円単位の金額の貸し借りやおごり、おごられをしているのが気になる。
 ・被災地では、避難による子どもの人数の減少から、同世代との交流時間も減り、大人との交流時間が主となることで、子ども間でのコミュニケーションに上手く対応できない傾向もある。
 
◆揺れる子どもたちのこころ
 このように、被災地・福島の子どもたちの置かれている状況もさまざまです。震災当初に頻繁にみられた粗暴な言動は減少傾向にありますが、前述した帰還判断の難しさによる影響で、親や家庭全体の重い雰囲気により、漠然とした不安を抱えている子どもたちも少なくありません。
 他方、避難先という新しい土地で生活再建しつつある家庭も出てきて、塾や習い事に取り組む子どもたちがいるなど、未来に向けた話題も少しずつ増えつつあります。
 これまでの支援活動で出会った多くの子どもたちは、震災後の大変な経験をしながらもその時々の状況に適応し成長してきたように見えます。ただ、それが震災によるものかどうかにかかわらず困難を抱える子どもはいますし、震災体験が今後どのような影響を及ぼすかもわかりません。
 原発事故による避難・転校を強いられ、避難先での新しい学校でいじめにあったり、友だちができずに辛い思いをしたと話す、その子どもは報道の中の話ではなく、私たちの目の前にいる子どもです。そうした子どもたちにとって、"苦しい現実"であることに変わりはないのです。
 ある時に、避難先で新たに良い友だちができたことを嬉々として話す子どもの隣で、じっと黙って俯いてそれを聞いている子どもの表情を忘れることはできません。また、自傷行為について話し、その傷を私に見せた子どもがいました。そして、今になってようやく原発に対する不満やその存在に対する疑念を私たちに話すようになった子どももいます。

◆これからの支援に必要なこと
 避難指示解除後の福島では、さまざまな場面において、曖昧な喪失から明確な喪失への移行がはじまるでしょう。これまでの避難者は、「あの場所に家があるのに、帰りたいのに、なぜ避難させられているのだろう」「本当に放射能の被害はないのか、実は癌のリスクが増加しているのではないか」など、誰も答えてくれない、答えようのない日々を送ってきました。
 それが、避難解除になり「帰還=各種支援の打ち切り」という選択肢を提示された今、否応なしに帰還する・しないを決断しなければならなくなります。それは、同居・独居などの家族形態の変化、就労による経済的変化、病院が少ないなどの理由から来る高齢者や子どもの健康リスクなども覚悟するということに繋がるかも知れません。
 今後の被災地に必要なのは、復興という言葉に惑わされることでも、震災・原発事故を軽視することでもありません。避難者・子どもたち自身の意思が反映されていない過剰な支援や、復興の旗印を否応無しに背負わせることでもありません。
 平時であろうと、非常時であろうと重要なことは、子どもの声やその気持ちに寄り添い、子どもたち自身が本当に実現したいと思う日常生活を大人や社会全体で受け止め、そして共に考え実行していくことではないでしょうか。それが本当の意味での「チルドレン・ファースト」へ繋がるのではないかと考えています。
(本稿執筆にあたり「NPO法人ビーンズふくしま」の仮設・災害公営住宅の学習支援活動を参照)

被災地の 東日本大震災から5年半―子どもたちの支援のあり方を考える
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