平和を学び・考え・願う 青年仏教者の集い

2002.09.30~10.01

心の教育に出会う旅 ―もう一人の自分との対話を通じて―

全青協では、2002年9月30日から1泊2日の日程で「心の教育に出会う旅」と題して、長野県は安曇野で、その活動が高く評価されている3ヶ所の教育施設を訪問し、研修を行うスタディーツアーを開催した。

 

JR大糸線穂高駅を降りると、常念岳をはじめとする北アルプスの山々がここ安曇野を囲んでいる。人間は大自然の中にあっては、ちっぽけな存在であることを感じさせられる。また森が空気を浄化し、大地が水をろ過するかのように、きっと人間の心も癒してくれるのであろう。だから皆ここに集まるのだ。

青少年にお寺を開放して

最初に訪れたのは、穂高駅より車で3分ほどの田園風景の中に建つ第25回正力松太郎賞を受賞した曹洞宗宗徳寺だ。当日は台風接近中というあいにくの天候だったが、参加者の青少年育成に対する真摯な思いが天に伝わったのか、雨風は比較的穏やかであった。

まず本堂でご本尊に礼拝したあとに、アイスブレイクを兼ねた参加者自己紹介を行った。その後住職の寺口良英師と夫人の芳子さんのお話を伺った。

夫妻は20年以上青少年の育成に力を注ぎ、不登校や非行の問題を抱える子どもを受け入れてきたという。そうした活動のエネルギーはどこから得られるのだろうか。そう疑問を持ったとき、住職の口から静かに語られ始めた。「三男を病気で亡くしてね」。三男は小3の時高熱により障害を持って以来、学校でのいじめ、高校中退などつらい時期を過ごし、7年前に他界したのだという。無常を身近に感じた人間の悲しみを内に秘めながら突き動かされる力、これが活動の原動力であり、仏性というのであろう。

その後、子どもを宗徳寺に預けたことのある父兄らを交えてディスカッションを行った。「宗徳寺への恩返しで現在もお寺を手伝っています」「住職がかけてくれた一言で救われました」など、地域に密着した宗徳寺の姿を感じることができた。
住職の話で印象深かったのは「お寺は場所の提供だけでいいだよ」という言葉である。全部自分で出来ないのだからしなくてもいい、あれこれ考えたら二の足を踏んでしまう。思いがあれば必ずまわりから助けてもらえるとのことだった。「寺が現実の中で生きているかが大事」そう話す夫妻の顔はすがすがしく、多くの若いいのちを育んでいくことへの情熱が生き生きと感じられたあっというまの3時間であった。

もう一人の自分との対話

宗徳寺から車で20分ほど北アルプスのふもとの方へ向かうと、白樺の林が見えてきた。別荘が立ち並ぶその一角におよそ教育施設のイメージとは程遠い、洒落たペンションのような建物が見える。ここが次の訪問先の「有明の家」だ。3階の屋根裏スペースで「人生をよく『旅』に喩えます」と話す代表の波場武嗣氏は、穏やかや口調で「有明の家」の特徴である「内省」を通じて悩みや不安を持つ人たちに癒しを与えるその活動を語りはじめた。

「人生という旅は『身体』という車を『心』というドライバーが操作している」と話す波場氏。「私のドライバーの助手席には私をナビゲートするもう一人の自分『パートナー』がいてあなたを導く」と、「内省」は自己が自己を癒し、カウンセリングする行為であることを説明し、続いて参加者自身の「内省」体験も行われた。

波場氏は「私はここに来る悩みを持つ人々に何にもしていないんですよ、ただそばに寄り添っているだけなんです」と話す。幸せな人生を生きたいのなら、自分自身との関係に注意を凝らし、心の耳を傾けて聞く。究極のカウンセラーは自分自身なのであろう。有明の家は波場氏、スタッフともみんなが暖かく、居心地が良い。第二の故郷のようだと感想をもらす人もいる。この心地よさが印象的であった。

農作業、遊びを通じて

有明の家からさらに北へ車で30分ほど走らせると、最終訪問先「Greenすく~る」がある。現在4名の若者が滞在しており、農作業などを通じ、社会復帰を目指している。

2階の広間に入ると、若者らと代表の羽生隆氏が我々を迎えてくれた。少々緊張しているのか、若者らはうつむきかげんだ。全員で自己紹介ののち、車座になってディスカッションを行った。

羽生氏 羽生氏は「親とのつながりを持つのが大事」とし「子どもたちだけの問題ではない。親こそ変わっていただきたい」と話す羽生氏。預かる子どもの親には毎月1回必ずGreenすくーるに来てもらい、子どもたちと同じ体験をしてもらうそうだ。若者の一人は「親と話ができるようになりました。今は親といることが楽しい」と照れながら話す。

羽生氏は名古屋に自宅があり、ここ安曇野には単身赴任しているのだという。

「自分の娘が非行になりそうでした」と笑う羽生氏だが、毎週の帰省でなんとかその危機を乗り越えたそうである。自分を犠牲にしても悩める青少年らと生活を共にする羽生氏。その尊い活動はまさに菩薩行ではなかろうか。

終わりに

このツアーに参加をしたなかで、ほとんどが仏教者で、その参加動機は様々であった。檀家から悩みを相談された僧侶、今後自分の活動の一助としたい僧侶...。「地域の生きた寺としての宗徳寺に感激」「悩める青少年らに『内省』してもらうより、まず僧侶が『内省』したほうが良い」などの感想も聞かれた。

実際に現場を訪ねるツアーは生の声が聞け新鮮な体験ができる。ここでの学びが冷えていかないよう参加者の今後の活躍に期待したい。(総) 

結集!―平和を学び・考え・願う 青年仏教者の集い― For Love and Peace 「子弟教育を考える」フォーラム
前のページヘ 活動しようのトップへ