寺子屋指導者研修会
2020.05.29
2019年度指導者研修会を開催しました
全青協では1月20日、精神保健福祉士の田中剛氏を講師に迎えて2019年度指導者研修会を開催しました。
「複雑性PTSD」とは、虐待等による長期の対人関係を起因とした心の病のことです。症状として感情調整の障害、無力感、絶望感、自己破壊的行動、衝動的行動など、以前の人格状態からの変化等があるようです。
田中氏の臨床経験を元に、具体的な事例についてお聞きすることができました。
まず複雑性PTSDの起因因子となる家庭環境について。典型的な例としては、アルコールやギャンブルの依存症が多くみられ、世代間で連鎖することが問題となるとのことです。そして依存症は単なる気持ちの問題ではなく、「脳の病気である」ということが深く印象に残りました。
健康な家庭環境であれば夫婦間でよく話し合いが行われ、「この家では言ってはいけないことはない」「困ったことがあれば相談できる」という大前提が、子どもたちの中にも自然と根付きます。
ところが不健康な家庭環境にある場合、誰かが不機嫌な顔をしていると「自分が悪いのではないか」と考えるようになり、困りごとがあっても家族に相談することができません。このように家族機能が壊れている家庭では、親も子どもの訴えに耳を貸す余裕を持てず、遊びや趣味などの時間をともにすることもできません。結果、そうして育った人には依存症のリスクが上がってしまうという負の連鎖が起こってしまいます。
そしてまた、家族間で力の弱い子どもたちにしわ寄せが行き、彼らの心に傷を残してしまいます。
「トラウマは体に蓄積する」「逆らえない」という田中氏の言葉が強く響きました。
その他、実際のカウンセリング現場でのご経験を例に、侵害されてしまっている「個人が尊重されるべき境界線」「守るべき境界線」を引き直すケアについてお話しいただきました。当事者のご家族がいらした際は、一時大変なことになっても「言うべきことをさわやかに言う」ことをアドバイスされているそうです。
◆ 全身全霊でクライアントの話を聴く
研修会後半では、カウンセリングのロールプレイが行われました。クライアント役の方の「引きこもっているが家に居場所がない。できれば仕事もしたいし、家庭も持ちたい」という訴えに対し、田中氏は「それが叶ってどうなるといいと思いますか?」「今家が辛いのに家族を持ちたいのですね。家族ができたらどう変わると思いますか?」と尋ねます。「家を出たい。楽しくみんなで旅行をしたりしたい」と、クライアント自身の口から具体的な願いを導いていることに感銘を受けました。
現状の苦しさではなく、ふとしたきっかけで見えてくる望む未来へと、自然と視線を向けるお手伝いをする、希望の側面を引き出すことが大事なのだと感じました。また、ご家族に言われて渋々いらしたクライアントの方には、嫌々ながらでも相談室に赴いてくれたポジティブな面にフォーカスすることから対話を始められるそうです。
その後、参加者も二人一組でカウンセリングのワークを行い、何組かの方に感想を発表していただきました。ケアや相談の現場にいらっしゃる方が多く参加されていたため、とても実践的なロールプレイになっていたように思います。
また、質疑応答ではたくさんの具体的な質問とアドバイスが交わされました。
精神科、保健所、警察との連携や、クライアントを尊重しつつも境界線はきちんと引くこと、またセルフケアの大切さをお話しくださいました。
田中氏をはじめケアに携わる皆さまの日々の努力とはたらきかけの一端に触れ、一人でも多くの方が1日でも早く、安心安全な環境で心穏やかに過ごせるようにと心から願うばかりです。