第５回勉強会「軍隊を持たない国コスタリカの事例と有事法制」

講師：大山勇一氏（コスタリカ平和の会事務局長）

2003年５月29日、「平和を学び・考え・願う青年仏教者の集い」主催の連続平和学習会が開催されました。第５回を迎える今回は「コスタリカの人々と手をたずさえて平和をめざす会（コスタリカ平和の会）」事務局長・弁護士の大山勇一さんを講師にお招きしました。コスタリカ平和の会は、軍隊を持たない国コスタリカと日本の市民が手をとって、軍隊によらない世界平和を実現していくためにさまざまな活動を行っています。

中米のコスタリカ共和国は、北にニカラグア、南をパナマに囲まれた人口約380万人（スペイン系白人95％）、面積51100平方キロ（四国＋九州程）。政情不安定な国が多い中米において、この国は50年以上も非武装中立を貫いています。
折しも北朝鮮核保有発言等による世論の後押しで、有事法制が衆議院を通過した直後というタイミングでしたので、興味深く聞き入りました。当日の講演の内容をご報告します。

軍隊を持たないという選択

1948年、大統領選挙の不正によって内乱が起こり、約2000人の犠牲者が出たことを反省し、フィゲーレス新大統領は軍隊の廃止を提唱した。「軍隊はしばしば国民を弾圧するために使われてきた。我々は今後、対話による解決を選ぶ。もう軍隊はいらない」とフィゲーレス氏。国内に武力集団がいなければ内乱もなくなるという発想は、世論の支持された。翌1949年に制定された憲法の第12条で常備軍（臨時の軍隊は除く）を持たないことが確認された。以降現在まで一度も軍隊を（臨時も含む）持ったことがない。

非武装中立宣言

大山勇一さん　冷戦下、アメリカは中米・カリブ海諸国に社会主義革命が拡がることを恐れ、ニカラグアへ介入し内乱が発生した。米国は隣国コスタリカに軍民共用空港建設を提案。1983年、モンヘ大統領は、戦争協力となる軍事基地建設を断固拒否した。そしてコスタリカは永久に非武装を貫き、中立的な立場で外交を行う「非武装永世中立宣言」を発表。世界中が賞賛する中、米もそれを受け入れ、基地建設を断念。コスタリカは米国から経済援助を受ける等の結び付きが深いのだが、米政府の自国寄り議員へはたらきかける等の外交努力を積み重ねた。

続くアリアス大統領（1987年中米和平協定を達成した功労でノーベル平和賞受賞）も圧力をかけてくる米国に対し「友人は率直に意見するが従属はしない」という立場を貫く。また、自国のみならず隣国の安全をも対話によって維持しようと、パナマに軍事力削減を提案。「平和とは単に戦争のない状態を指すのではありません。行動を伴ってこそ平和になるのです。平和を願うならば闘わなければなりません。武器を持たずに（対話で）平和のために闘うのです。」フィゲーレス元大統領夫人のカレンさん。対話は時にぶつかりあうが、なお対話を重ねる。コスタリカの人々の信条は「寛容さ」である。それは無条件で難民を100万人も受け入れていることにも現れている。

軍隊を持たないメリット

なによりも「殺し合わなくて良い」こと。また浮いた軍事費で教育や福祉の充実ができること。国立病院は無料を貫き、平和教育にも特に力を注ぐ。そこでは子供達が対話によって争いを解決することを学ぶ。また、民主主義の基本である選挙の重要性を、模擬選挙によって体験させている。更に、他国の外交官を養成することによって自国に好意的な人物を生み出している。これは軍事機密が存在しないためにできることである。

有事法制の問題点

隣国の脅威が盛んに叫ばれているが、政府も認めているように世界有数の軍事力を持つ日本を攻められる国はない。有事法制は米国からの外圧によって検討され始めた経緯がある。法案の中身を見ても、米軍と自衛隊の一体化をめざし、米国のアジアでの侵略戦争（政治介入）に日本が全面的に協力するすための法律である。決して日本や国民を守るための法律ではない。その証拠に、国民を保護する規定は後回しであり、また国内での米軍の行動には規制が無い。また戦争動員法案に「公益的事業を営む法人」は戦争協力が義務化されているが、「公益性を持たない法人などあり得ない」ので、実質的に多くの国民が戦争に協力させられる恐れがある。過去の歴史において武力で禍根なく紛争が解決した例はない。

「平和憲法を持つ日本が先頭に立ってアジアの平和に貢献すべきだ。日本も非武装中立宣言をすべきだ」（コスタリカで反核運動を進めるバルガス氏）。市民同士の平和的・文化的交流を広げていくことで、東アジアの国々と信頼関係を強めること。そのためには各国共通の歴史認識を構築することも大切であろう。有事法制に対して、声を強めていきましょう。

共に平和憲法を持ちながらも、相反する方向へ進んでいる日本とコスタリカ。不殺生のみ教えのを仰ぐ我々の進むべき道は、どう考えても今の方向ではないと深く考えさせられたお話でした。（平仏集・菅原）

（ぴっぱら2003年７月号）