「仏教者としての平和像」を考える集い

2003.04.24

第4回勉強会「グローバリゼーションと市場経済のオルタナティブ」

講師:田中優氏(未来バンク)

「平和を学び・考え・願う青年仏教者の集い」主催の連続平和学習会第4回目は、2003年4月24日に未来バンク代表の田中優氏を講師に招き、「グローバリゼーションと市場経済のオルタナティブ」と題して語っていただきました。未来バンクは、市民が出資して作られた金融組合で、環境や福祉のための事業をする個人や団体に低金利で貸付を行っている市民団体です。

現在、私たちの生活もまたグローバル経済の強い影響下にあります。このたびの戦争に政府がアメリカ追従を表明したのも、その流れの一つと捉えてもいいかもしれません。

ではその枠組みから離れた経済活動は不可能なのでしょうか。田中優氏は経済構造の分析と御自身の実践をもとに、経済、そして生活のオルタナティブ(代替案)を提示します。そして、それによって戦争すらも避けることができると示唆してくださいました。

戦争を生み出す原因

田中優さん 今回のイラク戦争を生み出したのは石油・軍需・金の三つだろう。
まず石油。冷戦時代、油は一商品として金さえ出せば買えるものだった。しかし90年代半ばから世界情勢の変化により産油国の意向が強くなる傾向が強まり、特にアメリカは石油の備えに不安が高まっていった。アフガニスタンへの空爆もイラクへの攻撃もその文脈上にあるように思える。

二つ目は軍需。アメリカの軍需費は年間48兆円にも及び、労働者の5%が軍需産業に従事している。冷戦後アメリカは、軍需産業において世界第一位になり、途上国にも圧倒的なシェアを持って輸出していたが、それが頭打ちになり、自ら戦争を作らない限りは武器の売り先がなくなる状態となったのが現在と言えよう。

そして三つ目の金。今回の戦争で暗躍した会社にカーライルという投資会社がある。ここは軍事物資を作っている企業の株の売買で利益を出すことを得意としているが、実は現大統領の父親がカーライルグループに参加している投資家の一人なのだ。今回の戦争は、ブッシュ家に莫大な利益をもたらしている。

戦争を無くす方法

では、これらの要素を無くせば、戦争を回避出来るのではないか。

石油については、日本中で今使われているエネルギーを100とすると、太陽光パネルで40%、風車で20%(海上に設置したらその倍以上)、水力発電で10%、木くずや糞尿など生物に依拠するエネルギーを活用すれば50%。これらを合計すると100%を自然エネルギーで代替可能という研究結果がある。

軍需について、今回の戦争では半径500メートルを全て焼き尽くすようなモアブや鉛の小片を飛ばすクラスター爆弾などが使われた。これらの殺傷力の高い兵器に対して国際的圧力をかけることが必要だ。大量破壊兵器も地雷も国際条約が取り締まっている。条約が締結されるような運動を続け、強い抑止力を生むことが大切だ。

そして金。今回の戦争経費は日本の銀行がアメリカ国債を買ったことでまかなわれている。私たちの金が何に使われるのかを私たち自身が知ることが、気付かないうちに戦争に使われないよう監視する役目となる。

期待される市民の動きとバランスのとれた社会

現在の日本社会は、行政セクター(GO)、産業セクター(PO)、市民セクター(NPO、NGO)の三つに分類できる。GOは公を司り、POは私益のために動くと考えれば、NPO/NGOは共益の場となる。

公のサービスや効率が悪ければ、効率的に運営する産業が代替する。産業が儲け主義に走るのであれば、同じ元手からより多くの共益を生む事業をNPOやNGOが担う。自然エネルギー促進を例にしても、企業が太陽光パネルを600万円で売っていた時に、あるNGOは妥当な利益を得ながら450万円で売っていたという実例がある。企業が儲けすぎていただけのことで、結果として企業も価格を下げざるを得なくなった。違うセクター同士で相手の行動を注視することが、バランスがとれた望ましい社会につながる。

では、バランスがとれた社会にするためには、三つの方向があろう。

一つは縦の方向。政治に働きかけることだ。そしてもう一つは横の方向。これは一緒に運動する人の輪を拡げること。そして、最後は斜め。これは、行政も聞いてくれない、産業も聞いてくれないとき、自分たちで自ら動いていく方向。つまりオルタナティブである。キューバは経済制裁を受けたとき、食糧も石油もなくなる危機に直面したが、このオルタナティブの方向を指し示す活動家がいたおかげで、一人の餓死者を出すこともなく危機を乗り越えることができた。この斜めの方向にお寺も位置しているのではないか。

今、日本もオルタナティブを見つけ、市民が自らの手で社会を変え、ひいては戦争すらも避けるべき時がきている。市民が力を伸ばさないと、経済の波に、そして戦いの波に翻弄されて終わるだろう。

戦争は単に国家間の問題に終わらず、市民の力で回避できることだと、斬新な視点を示唆してくださるお話でした。またお寺が社会のなかで人々を導く存在にあるのだと、寺院の社会的役割も提示してくださいました。(平仏集 枝木)

(ぴっぱら2003年6月号掲載)

第3回勉強会「宗教国アメリカとメディア」 第5回勉強会「軍隊を持たない国コスタリカの事例と有事法制」
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