「仏教者としての平和像」を考える集い

2003.01.22

第2回勉強会「パレスチナとイスラエル」

講師:立山良司氏(防衛大学校)

今回のテーマは「イスラエルとパレスチナ」で、講師として防衛大学教授・立山良司氏を迎え、質疑応答を交え、約2時間にわたってお話をいただいた。

立山氏は、かつて在イスラエル日本大使館専門調査員だったこともあり、中東問題に詳しい。現在は防衛大学で教鞭をふるう傍ら、外務省の中東問題委員のオブザーバーとしても活躍されている。

イスラエル建国

歴史的事実として、1948年にイスラエルは独立を宣言した。それはユダヤ人にとって二千年来の悲願が達成された瞬間であっただろう。なぜなら、ユダヤ人の歴史は、近代ではナチスのホロコーストに代表されるように、迫害と弾圧、差別によって離散生活を余儀なくされてきたものだからである。しかし、建国は同時にアラブ諸国との対立を生み、いつ果てるかもしれない紛争の歴史の始まりを生んだことも事実である。

立山氏はユダヤ人について「19世紀以前のユダヤ人は宗教共同体であり、ユダヤ民族という概念はなかった」と説明した。それが民族主義として目に見えてきたのは「シオニズム運動」が起こる19世紀からであると話す立山氏は、「シオニズムとはユダヤ人のナショナリズムであり、すでにアラブ人の地となって久しいエルサレム(シオンの丘)に、かつてユダヤ人が居住していたということから、ユダヤ人だけのための国家を建設することによって、ユダヤ人のアイデンティティーを表明、ユダヤ人を独自の民族とみなし、永続的な迫害の根本解決をはかろうという運動である」と解説した。

パレスチナ解放機構の樹立

その一方、中東戦争で住む土地を追われたパレスチナ人については、「80~90万人が追い出され、難民キャンプでの生活を強いられた」と語り、その中でパレスチナ人自身の力で領土を回復しようという動きが1964年のパレスチナ解放機構(PLO)樹立に結びついたと、反イスラエル運動の流れを解説した。

そしてPLO樹立当初、PLOはパレスチナ民族主義を唱え、パレスチナ全土の解放を目標とした過激組織ではあったが、圧倒的なイスラエルの軍事力を前に、ミニ・パレスチナ国家構想(全土解放の放棄・現実路線への転換)の模索をするようになったと現在までの一連の流れを歴史的史実に沿って説明した。

オスロ合意の行き詰まり

こうした流れの中、イスラエルとPLOは1993年にオスロ合意を成立した。つまり、パレスチナ暫定自治政府が5年を期限として樹立され、期限後は念願のパレスチナ人独立国家が誕生となるプロセスが、秘密交渉で成立したのだ。しかし、このオスロ合意も行き詰まりをみせることとなる。

聴き入る参加者 行き詰まりの原因として立山氏は両国の安全保障・治安体制に対する意識の食い違いを指摘する。
「イスラエルが和平に求めるのは『安全』であり、普通に買い物ができ街を歩ける生活の保障である。したがって、パレスチナ側による対テロ政策の実行の度合いに応じ、領土をパレスチナ側に引き渡すというものであったが、パレスチナ側の視点は、目的はあくまでも土地の確保と国家の建設であり、和平交渉は継続しながらも、解放闘争を続けていくという態度であった」と立山氏は分析している。

また、タカ派で知られるイスラエル右派政党「リクード」のシャロン政権による入植地の拡大などの強硬路線は、パレスチナ人に「明日はどうなるかわからない」という絶望感を与えており、また「ハマス」や「イスラム聖戦」といったパレスチナ過激派の台頭も和平交渉に影を落としていると、今後の和平交渉に懸念を示した。

和平への出口を

それでは、現状の状況をどう打破していけばよいのであろうか。立山氏は「出口が見えないからテロが起こるのだ」と分析する。そして「何年後には国家ができる、という青写真がなければならない」と語り、今必要なものはお互いの出口を見せることと、その出口までのロードマップを示すことが大切であると展望を述べた。それにはじっと我慢しながら進めていく覚悟も必要とも語った。

最後に、参加者の多数を占めた仏教者に対して「宗教が暴力を容認することはおかしいのではないか。今こそ厳しく批判してほしい」と次世代を担う若い僧侶らに要望した。

悠久の昔、中東の地に降り立った唯一絶対の神は、人々と契約をかわし、永遠の幸福を約束したという。しかし、世界をみれば中東以外にも戦争や対立が続き、ますます混沌としている。

日本国内に目を向けてみると、一般的には平和とされる日本ではあるが、殺人事件は毎日のように報じられ、不登校、引きこもり人口の増加、自殺者や交通事故も後を絶たずきりがない。このような状況をみれば、けっして日本も平和な世の中ではないことに我々は早く気付くべきだ。

人間はいつも恒久的な世を望む。しかし、無常であるがゆえに苦しむ。2500年も前に語られたこの真実を、一人一人がかみ締め、平和な世の中を実現していく為にどう行動を起こせばよいのか、模索しなければならない。 (総)

(ぴっぱら2003年3月号掲載)

第1回勉強会  アフガニスタンの現実を知る 第3回勉強会「宗教国アメリカとメディア」
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