寺子屋ふぁみりあ
2011.03.31
ひきこもりからの脱出(1)
「ひきこもり」とは、仕事や学校に行かず、社会とのつながりを避けて、概ね6か月以上家庭に留まり続けている状態であると厚生労働省は定義しています。こうした人たちが、現在若者を中心に、全国に約70万人いるとも言われています。
これだけの人がひきこもり状態にあるというものの、社会の中では「怠けているだけでは」「心が弱いのだ」といった偏見も根強いため、これまであまり包括的な支援の手が伸びてきませんでした。
しかし、40代、50代のひきこもり当事者も少なくない昨今、彼らを養っている家族も高齢化し、経済的な困窮や、深刻な孤立化、自死念慮など、放置するにはあまりにも深刻な問題が顕れはじめています。何より、当事者やその家族の苦しみは計り知れません。
全青協では、2004年に不登校やひきこもりに悩む青少年のケアを行う、全国の寺院・団体をつなぐネットワーク「てらネットEN(縁)」を立ち上げるなど、一人でも多くの悩める青少年の声に耳を傾けようと支援を重ねてきました。
昨年度からは、不登校やひきこもり当事者の家族のためのセミナー「寺子屋ふぁみりあ」を、浅草寺福祉会館と協働し開催しています。40人ほどの登録者は、月に一度のつどいや、お寺での合宿を通じて専門的な知識を学ぶとともに、お寺独特の空気の中でこころを静め、悩みを分かち合ってきました。
肌寒さの残る3月31日、寺子屋ふぁみりあの公開セミナー「ひきこもりからの脱出」が開催されました。全青協と浄土真宗本願寺派東京教区基幹運動推進委員会の共催により行われたこの会には、ひきこもり当事者、そしてその家族と支援者70名ほどが集まりました。
誰もがあたりまえに生きられる社会を
会場は、東京の築地本願寺です。お香の香り漂う荘厳な雰囲気の中、全員で東日本大震災の被災者の法要をつとめ、開会となりました。始めに、2名の講師による発題が行われました。
「若者の生きづらさを考える」ということで最初にお話いただいたのは、路上生活者や生活困窮者の支援活動を行う、NPO法人 自立生活サポートセンタ・もやいの代表理事、稲葉 剛さんです。稲葉さんは、生活に困難を抱える人たちの生活相談や入居支援、交流事業など、直接的な支援活動を長年にわたり行ってきました。
「かつては中高年の『おじさん』ばかりだった支援の対象者が、ここ10年ほどで若返ってきました。ホームレス支援と若者支援は別のものとしてとらえられてきたものが、ここ最近、さまざまな事情の元、交錯してきました」
と、稲葉さんは語ります。
2008年の秋以降、いわゆる「派遣切り」と「非正規切り」により、多数の労働者が仕事と住まいを同時に失いました。その対象者に若者層が多かったことは記憶に新しいところです。そして、貧困には経済的な貧困と、つながりの貧困の2つの側面があることを説明。
「行政をはじめ、社会が自己責任論を振りかざすことによって、困窮や生きづらさを感じている人をさらに辛い立場に追い詰めているのが現状です。私たち自身がこのような状況を許してしまっていることを、しっかりと自分自身の問題として受け止めることが大切なのではないでしょうか」
と論じました。
それぞれが出来ることを持ち寄り、行動を起こすことで、誰もが差別されずに、あたり前に生きていける社会を作っていけるのではと、社会の問題点を指摘しつつも今後の可能性を示し、会場の人たちにエールを送りました。