寺子屋ふぁみりあ
2018.01.11
若者たちの思いと自立支援
11月2日、平成29年度第七回目の寺子屋ふぁみりあが開催され、NPO法人さいたまユースサポートネット理事の金子由美子先生に、「若者たちの思いと自立支援」と題してご講演いただきました。
以下は講演の抄録です。
私は公立中学校で、養護教諭に39年間就いていました。子どものからだ・こころ・性を臨床として見る中で、それを何とか社会化していきたいと思っていました。
2007年に岩波ジュニア新書の「思春期ってなんだろう」を出しましたが、思春期研究をしていく中で、臨床家として子どもから教えてもらったと言っていいでしょう。子どもたちの声を表に届けるということで、チャイルドライン支援センターの理事もすることになりました。それから、"人間と性"教育研究協議会で作っている雑誌「季刊セクシュアリティ」の副編集長が、今の役職です。さいたまユースサポートネットでは、さいたま市から委託を受け、生活保護等のお子さんの学習支援を行っています。
思春期って何だろう?学校にいるときに、いろいろなことに気が付きました。
思春期やせ症。ガリガリに痩せてしまい、それでもなおかつ痩せようとする子がいました。病院につなごうとしても続かず、でも学校には来ます。家では誰も助けてくれない。そもそもそこまで痩せてしまうのを、見過ごしている保護者。
過換気症候群。たくさん空気を吸うと動悸が激しくなり、バタバタと倒れたりしますが、そういったことも少女たちに多かったりします
いつも一人でいる子、こだわりが強い子。かつて学校がすごく荒れた時代、暴れてガラスを何枚も割る男の子たちを、力のある先生が上から押さえつけて、制圧しようとした時代がありました。でもそれでは、全然制圧できなかった。なぜかというと、心に寄り添っていなかったからです。当時かなりの率で、ADHDや学習障害、発達障害の子がいたに違いありませんが、学校では全く手段を講じることができませんでした。
集団行動が苦手な子。保護者が集団行動が苦手な子は、学習ができないです。一人で孤立する子の保護者に来ていただくと、社会性に課題があると思われる方がいます。
グループを作れない子。発達課題の中で「11歳の積み残し」があり、11歳になると、大体三人で遊び始めます。三人遊びができないとグループが作れなくなり、遠足のグループにも入れてもらえない。皆さんは三人で山や旅行に行く時、椅子への着席や並び方、歩き方など、かなり気を遣っています。そういった気遣いは自然に身に付くものではなく、レッスンを積み重ねてできることです。三人で仲良く遊べることがすごく大事だと、教育の中でも一様に言う所です。
安心、安全という感覚を獲得していない。感覚が麻痺して、事件に近寄ってしまう子。今は具体的に危険な物が、家の中から無くなっていることもあるかもしれません。性的虐待を受けている子とか、親がアルコール依存とかDVの家では、安心安全ではないでしょう。
こういったことが、子どもたちの現状として起きています。
人生は幼児期から進んでいきますが、思春期が非常におろそかにされています。青年期の方たちも、思春期の発達課題が未履修。体のメカニズムも、心のメカニズムも全然クリアできていない。様々な所で、子どもにとって必要な教育が抜けていることが多々あるのではないでしょうか。
中一ギャップ。小学校では正義感が強いと褒められて、児童会役員もやった優等生が中学に行きます。中学は、教科担任制です。部活で朝7時から夜7時まで拘束する学校もありました。そうすると、12時間もいい子やってられないです。それで疲れて学校に行きたくない。でも家でそれが発信できないので、子どもたちは最初仮病を使います。
中二病。中学二年になり、身長も伸びて精通月経も始まると、大人を乗り越えたくなる。そんな時に、お母さんやお父さんに関して「超むかつく」とか、「ババア」とか言います。言葉が達者な子は上手に反応できるので、ちょっとすっきりしますが、ボキャブラリーが足りない子は、中二の時すごい苦しいです。
三年生は、ほぼ規格品にされちゃう。受験生です。学校によっては、「ゼロ・トレランス(不寛容。細部まで罰則を定め、違反した場合は厳密に処分を行う方式)」という考え方が出てきて、その子の家庭事情とか一切鑑みず、第一ボタンを外していたらマイナス5点、第二ボタンを外していたらマイナス5点。これでマイナス15点になったら、部活3日間禁止とか。どんどん規格品を送り出すようなことを、子どもに向けている現場もあります。
私が保健室で関わってきた子たちも勉強が遅れてしまうので、定時制や通信制高校が主な選択肢になりますが、コミュニケーションスキルが無い子は、続きません。五月の連休明けにバタバタと辞めます。点が線に全くなっていないのですが、皆さんと一緒に考えて行かなければならない所です。
2003年に「保健室の恋バナ」という本を出しました。中学生になると、恋バナが始まります。恋愛を成就させるには自己肯定も必要ですが、相手に対して自分の折り合いをつける、非常に高度なコミュニケーションスキルが必要です。メディアは誰でもできるように煽り、歌も漫画もドラマも映画も全部恋バナです。そうすると、恋をしないと落ちこぼれになっているようなムードに流れていく中で、ますます自信をなくしてしまう。受験や恋愛に関しても、展望が持てない子どもたちが送り出されていくのが、社会の情勢です。
今の子どもたちは、作られる体、作られるボディイメージという点で、非常にバイアスをかけられています。女の子は、痩せてスリムに。男の子はマッチョに。身体的な自立を全く学べないまま、大人になってしまう。
そして精神的な自立。この辺が思春期の課題です。「クソババア」と言って、お母さんが悲しそうな顔をすると、これは言っちゃいけないんだと分かります。お母さんが悲しそうな顔をしたら言わなくなるので、学校の先生に言う子もいます。
その上に生活上の自立。お金を稼ぐとか、洗濯を自分でするとか。そして社会的な自立、性的な自立。
「お父さんのと一緒に洗濯しないでよ。」これは動物的な本能がメカニズムの中で起こっていて、娘がちゃんと成長している証です。大人になってきたことを自覚されるといいんじゃないですかと保護者会で言うと、本気でホッとされるお父さんの顔が、面白いです。
以前、「思春期はさなぎ」というエッセイを書きました。ある時期、子どもが部屋に閉じこもって、私らしさを模索しています。毛が気になって仕方が無いし、自分の趣味の物を一杯集める。
皆さんも大人になるお子さんに関して、さなぎの部分をいかに守ってあげられるか。まずは風雪から守り、出て来た時にどんな風に声をかけるのか。自分の娘や息子がアゲハチョウ、モンシロチョウ、もしかしたらガになるかもしれないし、カブトムシかもしれない。さなぎから出て来る時は、自分の育てた子どもとはまた違う。上手に付き合う親子関係というのも、大事な所だと思います。