寺子屋ふぁみりあ
2017.11.02
「若者のこころを代弁する その2―体験からの『当事者研究』」
9月7日、平成29年度第五回目の寺子屋ふぁみりあが開催され、NPO法人ストップいじめ!ナビ副代表理事・須永祐慈先生に、「若者のこころを代弁する その2―体験からの『当事者研究』」をテーマにご講演いただきました。
以下は講演の抄録です。
「若者のこころを代弁する」というタイトルを頂戴しましたが、レジュメの一番目に小見出しを付けました。「若者のこころ、果たして私は代弁できるのか?!」
これにはいくつか理由があります。一つは、私が年齢を重ねて、若者領域からグレーゾーンになった自覚があるからです。
もう一つは、私はストップいじめ!ナビというNPOの副代表理事です。この団体は評論家の荻上チキが代表で、自殺対策に取り組むNPO、チャイルドライン関係者、性的マイノリティ、不登校経験者、若手弁護士が集まり、いじめを少なくする目的で情報発信や出張授業、講演を行っています。日常で電話を受けたり、直接お話を聴く機会は少なめです。
ただ、私は過去にいじめを受け、不登校になりましたが、その経験がとても大きい。当事者としての体験が今の活動につながっている部分もあり、生きてきた道を紹介するのも、意味のあることかもしれないと思っています。
私は東京生まれで、小学3年までは楽しく学校に通っていました。ところが親の転勤で、3学期に転校しました。
雰囲気がガラリと変わったのは、新学期の4月です。クラスで落ち着きがない子の態度がどんどんひどくなり、私にターゲットが向けられ、徐々にいろいろなエピソードが積み重なります。そうすると、クラスの空気も変わります。私も違和感を感じて孤独さが増します。少しずつダメージが膨らみ、むかつきが焦りに、その後ストレス、不安へ変わります。
それで学校へ行くこと自体が、ある種の臨戦態勢になります。かなり疲れて緊張しているから、給食も食べられなくなる。そのようなことがいくつも重なり、限界だと思い始めました。
5月連休明けには、心身がボロボロです。どうしていいかわからない。緊張度合いが120パーセントと思った時、朝、母親に「もう学校行きたくない」と言ったのが、不登校開始のきっかけです。
それからは、学校に行ったり行かなかったり。図書室や保健室へも登校しました。今度は語気を強めて親に「行きたくない」それで行けなくなりました。
親は子の幸せのために一生懸命ですが、私にとっては親も信用ならないという感覚になります。さらには自己否定の悪循環に陥ります。
子どもとしては、親にわかってほしいのは明らかですが、何をしゃべっていいのかわからないのです。まず現状を見てほしいし、混乱があることを認識してほしいのです。
私がひきこもっている最中に、各地に親の会ができ始めました。私の親も行くようになり、情報を共有し、安心するようになりました。
それで私も、マイナスのエネルギーを減らせるようになりました。マイナス1000のエネルギーがマイナス100程度になった時、安心して家にいられるようになりました。安心してひきこもれるようになって、外出意欲が湧いた気がします。
そこで私は、フリースクールを見つけて通うようになりました。「ここにいていい」「自由に過ごしていい」「生きてていい」自分が人間として認められることを、フリースクールですごく感じました。ここではさまざまな学びや活動を行っており、みんなが楽しく過ごしています。「僕って楽しんでいいのかもしれないなあ」と思うようになります。
親から見ると、かなり劇的に元気になったらしく、さらに期待を寄せてきて、子どもとしては「むかつくなー」って感じですが。親と子は、永遠に戦いなのかもしれません。
一つ強調しなければならないのは、自己肯定感と自己否定感の話です。
今まで私が話したのは、ひきこもりの回復過程の話ですが、自己肯定感を増やしたから回復したのではありません。積み上がった自己否定感とどういう形で向き合うかが、非常に大事な側面だと感じます。自己肯定感は増やすものではなく、もともと持っているものなのです。自己否定感が減ることにより、人は必ず肯定的な欲求が膨らんでくると思います。
その結果どう生きるかですが、生き方の多様性は広がり、大分変わりつつあると感じています。
大きく変わったのは社会の目線です。一昨年、子どもの自殺統計が大きく報道されました。これを受けて、ある図書館はツイッターで、「学校が始まるのが死ぬほどつらい子は、図書館へいらっしゃい。一日いても誰も何も言わないよ。」というツイートをしていました。
今年は上野動物園の「逃げる時に誰かの許可はいりません。脇目も振らず逃げて下さい。もし逃げ場所がなければ、動物園にいらっしゃい。」というツイートが反響を呼んでいました。命を削ってまで頑張ることは止めていいという空気が、徐々に広がってきたことを感じています。
実は、安心できる人や場が増えています。それらを普段から知っていることにより、少し追い込まれた時に気付く環境作りが大事です。そういう場所が、自己否定を深め過ぎない一つのセーフティネットになっていくでしょう。意識の変化が始まっているので、どんどん輪を広げていけるといいですね。
政府も動き始めていて、例えば地域若者サポートステーションへ行ってみると、寄り添う大人が確実に増えています。
つまり啓発だけではなく、もう少し具体的に、私たちが生きやすい所を発信したり共有できれば良いと思います。