寺子屋ふぁみりあ
2017.06.01
ひきこもりとのかかわり
5月11日、平成29年度第一回目の寺子屋ふぁみりあが開催され、足立区の「カウンセリングルームベア」で精神保健福祉士をしておられる、田中剛先生に「ひきこもりとのかかわり」をテーマでご講演いただきました。
以下は講演の抄録です。
私の作業内容は、心理検査と心理的に見立てることです。どういう環境の中で問題が起こっているのかを見立てて、時に関係諸機関と連携の上、調整もします。個別面接もしますが、グループ面接も結構行っています。本人だけ改善しようと思っても改善できないことがほとんどです。
専門は、家族機能と依存的行動です。その中にお金の問題があったり、アルコールや薬物依存の問題があったり、ひきこもりの問題があります。
ひきこもりの一つの要因として、家族機能のバランスが何かの事情で崩れた時、入口に差し掛かかってるケースがあります。家族機能を考えなくてはならないケースが、ひきこもりの場合は多いです。
自閉症スペクトラム障害など、知的な偏りがある人には、すごく具体的に伝える必要があります。知的バランスの特徴は、誰にでもあります。バランスに合った生活をすることが大事ですが、バランスに特徴が強い場合だと、ちょっとした支援を必要とする可能性があります。
知的バランスに由来するケースには、構造化が有効です。構造化とは、具体的に示すこと。絵で描いたり、文字を紙に書きます。面接の際に、目の前で喋ったことを書きながら本人に示すと、理解度は随分違います。講演でも、パワーポイントや手元に資料があると、理解度が全然違うと思います。あるいは数字にしたり、順序はこうしましょうというティーチング。これらは知覚統合の苦手さのある方には、特に有効だと思います。
訪問の意義は、良質な援助関係もあるよ、良質なコミュニケーションもあるよ、というのを、本人に知らせることです。専門家が訪れることで、診断の可能性も見えると思います。家族機能に関しては、締め切った家に、人間関係の通風効果をもたらす意味もあります。面接室では聴けないような話が聴けます。
部屋から出たり、働くことを目標にせず、良好な関係を持つことを目標に置いていると、自然と本人の回復力が働いていきます。
臨床を通して最近感じていることは、相談室に来た本人からお話を聴いていると、PTSD (心的外傷後ストレス障害)と呼びうるポイントがありそうな点です。多くの事例に、社会に対して不安を抱くようなきっかけが存在しています。不安が、強迫的思考を呼んでいる場合があります。
強い不安を抱える方の場合には、EMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)やTFT(思考場療法)といった、身体的心理療法という方法もあります。ある当事者には、暴露療法を行いました。何が心的外傷の原因か本人にもわかっていない場合は、このような方法もあります。
ふぁみりあのような家族の集まりに出かけることは、素晴らしいことです。家族相談に来る人は全体のごく一握りです。臨床側から見ても、家族相談があると、良くなる速度や状態の改善度が全然違います。是非、家族会や家族相談を継続していただきたいです。理由は、家族が抑うつでないことが、問題解決の鍵になるからです。
ふぁみりあに来て、すぐに問題は解決しなくても、気持ちを吐き出すとか、家族自身が健康であることが重要だと思います。
本人に対する関わりで私がやっていることは、自分がどうしてこんなに困ったのか、どうしてこうなったかという状況を分析し、見通しを立て、希望を持ってもらうことです。希望を持ってもらうと、社会適応や気づきも、その後からやって来ます。心理検査も一つの方法です。
自分が感じていることと、頭で言語的に考えていることが上手くつながらない本人が結構いるので、感覚を言語化できる手助けをして良好な関係を保つと、じわじわと社会活動が増えていく印象を持っています。
統合失調症などの精神病状態は、心の「骨折」です。骨折の場合は、一日も早く医療機関につながって欲しいので、保健所の、精神担当の保健師さんに相談して下さい。暴力が起きた場合は、警察官に通報して下さい。
公的相談機関に相談することは、いろいろな角度からメリットがあるので、粘り強くアプローチして下さい。ただし利用するにはコツが要ります。本人が行かなくても、家族相談でOKです。
暴力を伴うケースには、警察官通報と保健師通報を積極的に使って下さい。暴力に関しては、断固として屈しない姿勢を本人に知らせます。避難場所を作って下さい。ファミレスでも、近所の親戚の家でも良いです。大事なものはすぐ持ち出せるようまとめておいて下さい。暴力の本人に対する対応の仕方ですが、怖がられると余計怒りますので、できる限り冷静に。本人と暴力は切り離して下さい。
ひきこもりには、それぞれ適切な見立てと、適切な対応があります。専門家と一緒に見通しを立てることが重要です。見通しがあるだけで家族が楽になる側面もあります。
随伴性マネジメントは行動療法の一種ですが、いい時にこそ関わって下さい。いい関わりがあれば、行動は改善されていくはずです。悪い時に関わると、望ましくない行動が繰り返されます。この仕組みを利用します。役に立たなかったやり方は、さっさと止めます。
正論は避けましょう。正しさは反発心を生み、関係が悪くなるだけで、良くはならないと思います。
質問は願望の方が多いので、避けた方がいいです。説教、命令ではなくて、「私はこうして欲しい」提案型で伝えて下さい。これは「私」と「あなた」という適切な距離を保てます。優しい言い方に聞こえますが、実は自立を促す結構厳しい言い方なのです。
家族自身が健康であることは、単独でも重要だし、本人の状況が良くなる鍵でもあります。是非、ふぁみりあのような会合に出たり、相談を継続していただきたいと思います。