寺子屋ふぁみりあ
2017.02.16
当事者、ピア・サポーター、ヤングケアラーとして
2月2日、今年度10回目の寺子屋ふぁみりあが開催されました。今回は、講師にIさんをお迎えし、「当事者、支援者、介護者として」というテーマでご講演いただきました。Iさんはご自身もひきこもりを経験されています。現在はひきこもりを脱し、ピア・サポーターとしてご活躍されるとともに、重度の身体障がいを抱えるご家族の介護をなさる、元ヤングケアラーです。
それでは、講演のレジュメに従い、お話の内容をご報告いたします。
Ⅰ.自閉症スペクトラムとともに
生まれつき自閉症スペクトラム(発達障がい)の傾向があり、学校など社会性が試される場所で苦労をしてきました。自閉症スペクトラムは、大きく分けると、①社会性の障がい(場の空気が読めない)②想像力の障がい(他人の気持ちが読めない)③コミュニケーションの障害(自分の考えや意見を話すことが苦手)の三つあり、また、それに伴って、さまざまな二次症状も発症することがあります。
学生時代は授業や行事にも比較的参加し、それほど深刻には考えていませんでしたが、就職を機に、精神的にも肉体的にも辛くなることが多くなりました。そして、そのまま退職し、ひきこもるようになりました。その後、転機が訪れました。偶然見かけた「NHKひきこもりサポートキャンペーン」です。これによって、自分がひきこもりだということに気づき、以降、ひきこもりについて調べるようになりました。ひきこもりに関するイベントや行事があることを知ると、それに参加するために、少しずつ外に出向くようになりました。すると、会社を辞めて沈んでいた気持ちが、だんだんと楽になっていきました。
Ⅱ.2003年
2003年は転機でした。ひきこもりに関して、本やテレビで勉強し、イベントや行事に参加し、その他にもたくさんの行動を起こしました。そうすることで、いろいろな人と出会い、いろいろな人の話を聴き、いろいろな経験をでき、自分が悩んでいることも「こんなもんか」と思えるようになりました。
Ⅲ.緩やかなつながり、持続可能性、多様性の追求 in ひきこもり業界
人脈も増え、ひきこもり支援団体から仕事を依頼されるようになりました。多少の失敗はありましたが、恐れずに、人とつながってみたことで、多様な価値観や新しい発想など多くの刺激を得ることができました。新たな挑戦もできました。それによって、決してゼロにはならないが、生きづらさが減っていきました。
Ⅳ.「田舎」で介護
小学生の時に家族が重度の身体障がいになり、ヤングケアラーとしての日々を過ごしてきました。現在も介護者です。田舎での介護は予想以上に大変で、辛いことも多いです。現在の日々は楽しくないけれど、子どもの頃や、ひきこもり当時に比べれば、病院の先生や親戚、友人など、助けてくれる人の多さを実感し、充実して生きることができています。周囲から同情される状況ではあるが、そんなに不幸だとも思っていません。毎日精一杯生きることができます。さまざまな人とつながっているし、そこから何かが生まれるはずだと思います。
私たちは、過去を悔いるのではなく、未来を怖れるのではなく、今を一生懸命生きるしかありません。
今回、Iさんには、元当事者・支援者(ピア・サポーター)・介護者(ヤングケアラー)という三つの視点からお話いただきました。次回は、今年度の最終回となり、「ビジョンマップを作ろう」と題してグループワークを行う予定です。
参考文献
上田紀行「生きる意味」岩波新書
佐々木俊尚「レイヤー化する世界」NHK新書