寺子屋ふぁみりあ
2016.03.18
訪問看護の現場から見えてくるもの-ひきこもり当事者の心性を探る-
今年度の寺子屋ふぁみりあも残すところ、あと2回となりました。2月4日の寺子屋ふぁみりあは、訪問看護士の久保毅さんをお招きし、「訪問看護の現場から見えてくるもの-ひきこもり当事者の心性を探る-」というテーマでご講演いただきました。久保さんは20年以上、精神科の看護士として病院に勤務されながら、訪問看護士として実際に患者さんのお宅に訪問されての診断もなさっています。また、週に一度、中学生・高校生を対象にした養護施設にも訪問されています。
久保さんは、精神科の訪問看護士として大切なことは、患者さんと少しでも"つながっていること"であるとおっしゃいます。久保さんは、患者さんとつながるために、その人の好きなミュージシャンやマニアックなマンガなど、できるだけ共通の話題が持てるように努力されてきました。また、久保さんは格闘技をされており、格闘技をしてみたいという患者さんを自らの所属するジムに連れていき、一緒に汗を流すこともあったそうです。
服薬についても言及がありました。薬によって劇的な効果を得ている人もいることから一概には言えないものの、服薬に重点を置く今の精神科の治療には少し疑問が残るそうです。薬だけに頼るのではなく、薬への依存性や副作用の怖さを頭に入れた上で、それぞれの患者さんに合った治療を見つけることが大切だということです。
ご自身の経験についてもお話いただきました。久保さんは、小さい頃からコンプレックスが強く、いつも緊張や不安が大きかったそうです。「弱みを見られたくない」「バカに見られたくない」など、自分を守るために、ありのままの自分を他人に見せることができず、また自分自身でもありのままの自分を受け入れることができませんでした。そのような中で、家庭の環境や経済的理由も加わり、学校に行くことができず、ひきこもっていた時代があったそうです。
先ほど少し触れましたが、久保さんは、"強さ"を求めて、格闘技に熱中した時代がありました。オドオド生きる弱い自分が嫌で、"強い"という形を手に入れようと思ったそうです。全日本の大会で優勝するなど、大きな実績も残されました。今でも格闘技を続けていらっしゃいますが、そのような経験のなかで、次のことに気づいたそうです。
強くあろうと思っているときは、本当の強さではない。弱くなってから、一番強くなった。見栄を張ったり、無理に強がることをやめたとき、本当に強くなれたと感じた
強くあろうと思っていたときは、ものごとを相対的に見ていたそうです。「強い人と弱い人」「偉い人と偉くない人」「有名な人と無名な人」など。そういったレッテルに捉われているからこそ、自分は良い方にいなければいけないというプレッシャーに襲われ、ありのままの自分を見つめることができません。そして、それはひきこもっていたときの感情にも似ているといいます。
自分自身のことも含め、ものごとを相対的に見ることをやめ、ありのままに見つめることができるようになったときこそ、本当の強さを手に入れることができるのだとおっしゃいました。
最後に久保さんは、
自分の経験を通してわかったことは、ひきこもりなど、思い悩む時期もあったが、それらが一つでもなかったら、今の自分はいない。振り返ったとき、経験は必ず今の自分に活かされている。今でも生きているなかで、様々な問題に直面するが、そんなに緊張や不安に襲われることもなく、わりと幸せに生きることができている。真面目すぎるのではなく、そんなに無理しなくても良いと思えるようになった。偏見やレッテルに捉われ、色々なことを気にしすぎるのではなく、素直にありのままを見つめることが大切である。
とおっしゃいました。そして、「社会をリードすることはできなくても、少しでもつらく生きている人の良いアドバイザーになれれば」と述べられ、講演を締めくくられました。
次回は3月3日に全青協主幹の神仁、寺子屋ふぁみりあの藤本真教師が、「こころ安らかに一日を過ごすために」というテーマで講演いたします。