てらネットEN
2004.03.24
不登校・ひきこもり対応寺院ネットワーク―お寺に向けられた"Help us!!
平成16年3月24日、東京・築地本願寺にて「不登校・ひきこもり対応寺院・団体ネットワーク準備会議」が開催されました。全青協では近年、深刻の一途を辿るこの問題に対して、教育セミナーの開催、スタディーツアーでの現場研修などを行い、仏教や寺院がどのような役割を果たせるか、考えを深めてきました。
そして今回、その中で得られた知見などを基にして、不登校・ひきこもりに対応している寺院間のネットワークを構築することにしました。この日は、全国から青少年問題に取り組む僧侶6名と、不登校・ひきこもり当事者を抱える親の会代表らが一堂に会し、5時間に渡る話し合いが行われました。
寺院への期待
会議では、まず始めに「全国引きこもりKHJ親の会」代表・奥山雅久さんから、この問題についての現状報告及び寺院への提言がされました。
奥山さんからは、近年は社会的理解がようやく進んできたものの、解決への道筋がまだ見えない現状や、30歳の当事者が現在も親と同じ布団で寝ているという親子共依存の話、また長年にわたるひきこもりの後、外出しようと靴を履いたら身体が成長していてサイズが合わなかったという話など、長期化・深刻化が進む現状についての報告がありました。
また、今回のネットワーク構想については、「僧侶側の福祉や地域への尽力に、本来の僧侶のあるべき姿を見た気がする」との強い期待が寄せられました。
寺院への具体的な希望としては、当事者の人間関係能力のスキルアップ、及び社会復帰に向けた中間施設の設置と、家族の精神的ケアが提示されました。奥山さんは、「このような施設が全国に欲しいが、それが可能な最大の社会的資源がお寺だと思う」「昔のような気楽に行けるお寺を復活させて欲しい」「伝統仏教の教えなどを生かして欲しい」との要望を述べ、寺院が持つ有形無形の資源が一般社会への大きな力になると話しました。
求められる意識改革
奥山さんからの提言の後、参加者同士の意見交換が行われました。参加者からは、「お寺だからできる布施はたくさんあるので、住職にはぜひ立ち上がってもらいたい」との意見が多数挙がる一方、「そのためには住職の意識とやる気がもっと上がって来なければならない」という見解も挙がり、仏教者が一般社会の問題にも目を向けるという姿勢が問われるとの見方が示されました。これを受け奥山さんも、「伝統仏教では家族に問題があったとき、お寺が自然と関わりを持ってくれていた。その役割は医者ではできない」との期待を再度表明しました。
しかし、それを可能にするためには、社会と関わることが出来る仏教者の育成が重要となるので、僧侶が修行と勉強を積み、一般の方から味方だと思ってもらえるものを身に付けていくことが必要となるという話が出ました。その上で、社会に対しては、「お寺は住職だけのものではなく、誰にでも来てもらえる場所である」という啓蒙活動を積極的に行っていくことが、このネットワーク発展のポイントとなるということでした。
このように参加者からは、仏教者が社会に対して担っている役割や社会的要請を再認識し、開かれた仏教に立ち戻ることの重要性が熱く語られました。
現場からの声
次に、参加者の寺院から、活動状況や青少年問題に取り組んできた経験及びそこから得られた知見について、資料を交えながら報告をしてもらいました。各寺院とも、フリースクールの運営、相談室開設、在所型施設の運営、親の会主催など、青少年問題に熱心に取り組んでいる様子が伝わってきました。
また、現場サイドから見ても、近年不登校やひきこもりの相談が増えていることや、不登校は誰にでも起こりうるという方針が出されたころから、今の親子は真剣な取り組みをしなくなってきていること、親もうつ状態となり、薬を飲みながら親子で通院する例など、問題が深刻化している現状が報告されました。
さらに、ネットワークのあり方に対する意見として、自分の所だけで抱えこまずに、対応できる先生に紹介できるネットワークが望ましいということや、こうした相談事業を立ち上げるにあたっては精神科医や弁護士との連携が重要になるなど、現場経験の中で培われた貴重な意見を聞くことが出来ました。
親子の苦悩
会議中盤では、不登校・ひきこもり当事者の苦悩についても話が及びました。参加者からは、一般的にはひきこもり当事者は内気でシャイなので暴力などを起こす者は少ないが、内心はとても苦しいという胸の内や、たいていの当事者は親への子育てのしかたに不信感を持っており、「何で自分を生んだんだ」という憎しみや攻撃性など、やり場の無い怒りを抱えてしまう事が述べられました。
また、親側に、子どもを大人にすることが親の愛情ではなく、子どもに楽をさせることが愛情だとの誤った発想があるという事や、携帯・パソコンなど、外と関わらなくても生きられる状況を容認してしまう親が多いとの指摘、生育歴で親のほうに後ろめたいものがあっても、ここだけは譲れないという所については毅然とする事が大事だという意見など、親の関わり方に関する指摘もありました。
会議終盤では、今後の具体的な活動内容や本立ち上げまでのスケジュールについて意見交換が行われ、この日の会議は無事終了しました。
僧侶たちよ、立ち上がれ!
かつて、地域社会で教育・福祉の中心施設として機能していたお寺。現在「葬式仏教」とも揶揄され、仏教離れが進む中、不登校・ひきこもりの問題一つを取ってみても一般社会から寄せられる期待は依然として高いものがあります。今こそ仏教関係者はこの期待にどう応えていくのか、真剣に考える時が来たのではないでしょうか。(隆)